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  • 水族館で撮影したチンアナゴです。近接撮影のうえに絞り開放なので背後のハゼの仲間? もかなりぼけています。 撮影協力:サケのふるさと 千歳水族館 https://chitose-aq.jp/

  • [連載:マニアックレンズ道場3]高いコントラストと解像力、美しいぼけが魅力の
    Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACRO

  • シンプルでどんなデザインのカメラボディとも相性がよさそうなデザインです。

    • フォーカスリミットスイッチです。「LIMIT」を選択すると37cmよりも近距離のピント合わせを行いません。

    • AFレンズのため、カメラボディと情報をやりとりするための電子接点が並んでいます。写真はキヤノン EF用です。

    • レンズの前玉はレンズ先端よりもかなり奥まった位置にあります。レンズ先端が伸縮してピント合わせが行われます。

  • 一眼レフなどのレンズ交換式デジタルカメラを購入すると、はじめての方はだいたいダブルズームキットか、高倍率ズームキットを購入するでしょう。すると、だいたい35mm判フルサイズ換算で24mm前後から200〜300mm程度までの焦点距離がカバーされます。普通に撮影するなら、なにを撮っても不満のない焦点距離が最初からカバーされているのが、最近の入門向けレンズキットの素晴らしいところです。しかし、キットレンズの標準ズームなどは意外と開放F値が暗くてぼけないことも多く、「操作はたいへんなのに、スマホと撮れる写真が変わらない!」などと思っている方も多いのではないでしょうか。このスマホと変わらないに陥ってしまうと、せっかくレンズ交換式のデジタルカメラを買ったのにスマホしか使わないといった残念な結果になることが多いように思われます。しかし、逆にカメラ(撮影)にハマる方は、撮影の目的に応じて、もう1本レンズを買ったことがきっかけで、レンズ交換式デジタルカメラでの撮影にすっかりはまってしまったという方が大部分ではないでしょうか。実は私自身も、もう1本のレンズを買ったことでレンズやカメラ、撮影にハマったひとりです。

    星景写真などにハマる方は明るい超広角、ポートレートなどの人物撮影にハマる方は明るい単焦点の標準から中望遠、スポーツや電車・飛行機、野生動物などの撮影にハマる方は超望遠といったようにレンズ交換式デジタルカメラと特定のレンズならでは撮影の魅力に気付いたことがはじまりで、すっかりカメラやレンズ、撮影にハマったという方が多いかと思います。私の場合は、これが100mmマクロレンズでした。近くのものをより大きく、人間の目で見る以上の解像力で撮影できるマクロレンズは、自宅裏の公園レベルの身近な自然を魅力的な被写体に大変身させてくれます。また、基本的に明るい中望遠でしかも被写体の近接できるマクロレンズでは大きなぼけという撮像素子の大きなデジタル一眼レフやミラーレス一眼ならではの魅力も存分に楽しめるレンズです。植物園などでマクロレンズで大きなぼけを活用した花の撮影を楽しんでいるフォトグラファーのみなさんも多いでしょう。

  • ピントリング全体をレンズの前後にスライドさせるようにAFとMFを切り替えるワンタッチフォーカスクラッチを搭載しています。

  • アマチュアフォトグラファーにも人気の100mmマクロですが、プロフォトグラファーにとっても使用頻度の高いレンズです。今回の記事のレンズの外観写真も100mmマクロで撮影しているのですが、商品撮影や複写などでのよく使われるレンズです。プロが必要とする分野の撮影では、しっかり絞って被写界深度を稼いでも高い解像力を保ち、商品や複写する被写体が歪むことがないよう歪曲が少ないことをなどが求められます。単純に被写体を大きく写せますではなく100mmマクロには開放付近からの高い解像力、ぼけの美しさ、歪曲の少なさ、絞って解像力が低下しないこと、色再現性の高さなどなど、アマチュアからも、プロからも高いレベルの要求が突きつけられるレンズといえます。

    ユーザーの要求レベルも高く、各社が多くのレンズを出している100mmマクロの新製品を2019年12月に発売したのがトキナーです。今回紹介するTokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROは同社のatx-iシリーズに属し、atx-iはトキナーが発売してきたAT-Xシリーズのレンズのなかからユニークなモデルピックアップし、外観・価格・性能を見直して最新のデジタル一眼レフにフィットさせたシリーズになっています。Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROは、Tokina AT-X M100 PRO Dを見直し、定評のある光学系はそのままに、外観デザインを一新、よりお求めになりやすい価格に設定したモデルです。レンズが高額化の一途をたどる昨今価格改定して安くなったという非常にうれしいレンズといえます。実勢価格は発売から間もない2020年1月現在で5万円を切っている非常にコストパフォーマンスの高いありがたいレンズです。また、キヤノン EF、ニコン Fマウント、それぞれに対応するモデルが用意されています。ただし、ニコンモデルについてはAFの駆動にカメラボディ側の制限がありますので、必ずメーカーWEB( https://www.kenko-tokina.co.jp/camera-lens/tokina/macro-lenses/atx-i_100mm_f28_ff_macro/ )で仕様表を確認することをおすすめします。

    • 形、質ともにぼけディスクのフチに発生している色収差による色付き以外ほぼ文句のつけどころのないぼけの描写チェックの結果です。 Amazon Kindle電子書籍『Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACRO 機種別レンズラボ』(https://www.amazon.co.jp/dp/B083854W3R)より抜粋。

    • 水槽のガラス越しに撮影したカエルです。ピントの合った瞳のシャープさ、体表の水分を含んだ質感などがしっかりと描写されています。

    • 日の出を100mm前後の中望遠で撮影するのが個人的に好きです。適度な望遠の圧縮感、逆光でも高いコントラストと解像力が発揮されています。 撮影協力:道の駅 ウトナイ湖 http://www.michinoeki-utonaiko.com/

  • 民芸品の彫刻の瞳のピントを合わせて、絞り開放で撮影しました。背景のぼけの描写の美しさにぜひ注目してください。

  • 2019年12月に発売されたばかりのTokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROで解像力やぼけディスク、周辺光量落ち、最短撮影距離と最大撮影倍率の実写チャートを撮影してAmazon Kindle電子書籍『Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACRO 機種別レンズラボ』( https://www.amazon.co.jp/dp/B083854W3R )を制作・出版しましたので、この結果を元に本レンズの光学性能を解説したいと思います。

    解像力については、Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROにおいてF2.8とF11がポイントになると思います。開放のF2.8から中央部分は十分以上、周辺部分については解像力のピークになるF11などに比べるとわずかにコントラストが落ちますが、安心して撮影できる描写です。大きくぼかしたいときは基本開放で、ぼけ過ぎをコントロールするために絞り値を決定するイメージで使うのがおすすめです。また、中央部分、周辺部分にともに解像力のピークになるのはF11前後になっています。実は作品撮影などでは大きくぼかしたいというのが100mmマクロへの強い要望でしょうが、商品撮影などでは逆にもっと被写界深度がほしいというシーンが多いので解像力のピークがF8.0ではなくF11というのはうれしいポイントです。ただし、F16以降は絞り過ぎによる解像力低下が発生するので、F11よりも被写界深度がほしいシーンでは深度合成などを検討することも考えたいところです。

    ぼけについてのポイントとなる絞り値はF2.8〜3.5とF5.6といえます。Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROは非球面レンズを使っていないので、ぼけに同心円状のシワが発生する玉ねぎぼけはなく、ざわつきも非常に少なく、絞り羽根の設計がよいのでぼけの形も美しい、マクロレンズのなかでも優秀な結果です。強いて弱点をあげるなら、色収差によるぼけのフチへの色付きくらいでしょう。開放付近ではほぼ真円に近い形のぼけが得られ、F3.5前後までぼけの形が保持されます。ただし、開放付近では口径食により周辺部のぼけが変形するのは理解しておいてください。中央部分と周辺部分の玉ぼけの形をそろえたいシーンではF5.6まで絞ることをおすすめします。自然でやわらかなぼけが楽しめるレンズなので、ぜひ積極的にぼけを活用しましょう。

    周辺光量落ちについては、通常の撮影では気にする必要のないレベルに仕上がっています。好きな絞り値で撮影して問題ありません。ただし、平面物の複写といった、通常の撮影とは異なるレベルで周辺光量落ちに配慮しなくてはいけない撮影では少し絞ることをおすすめします。開放F2.8からF3.5くらいまでは四隅にわずかな周辺光量落ちの発生が確認されました。周辺光量落ちに特に注意しなくてはいけない撮影ではF4.0以降を選択するとよいでしょう。また、RAW画像も撮影しておき、RAW現像時の補正なども併用すると万全です。

    最短撮影距離と最大撮影倍率については、30cmで等倍となっています。35mm判フルサイズボディに装着して約36mm×24mmの範囲を画面いっぱいに撮影できるわけです。Tokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROならではの特徴としては、前玉繰り出し式の光学系のため最短距離での撮影時のはレンズがもっとも長くなり、レンズ先端から被写体までは距離はかなり近くなることがあげられます。また、近接撮影時にも被写体を高いコントラストでしっかりと描写してくれる印象を受けました。非常に好印象です。

  • 絞り開放からの高い解像力、美しいぼけ、歪曲の少なさなど、高い光学性能を要求される100mmマクロレンズにおいてもTokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROは十分な性能をもっています。しかも、コストパフォーマンスもよく、軽量です。ただし、気になるのは最近では珍しいピント合わせ時にレンズ長が変化する前玉繰り出し式AFの速度ではないでしょうか。残念ながら、素直な光学系とはいえるのでしょうが、インナーフォーカスタイプに比べてAFが高速とはいえません。ただし、100mmマクロでは厳密なピント合わせの際にはMF(マニュアルフォーカス)を使うことが多く、私はほとんど気になりませんでした。AFとMFの切り替えをピントリングを前後にスライドさせることで行うワンタッチフォーカスクラッチが慣れると使いやすい点もいいです。しかし、私がTokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROをもっとも気に入っている点は、コントラストの高い描写になります。若干、色収差が多い部分とバーターなのか、シャキッとしたコントラストの高い描写と色の抜けのよさがおすすめポイントです。

    お手頃な価格に、高い描写性能、もしまだマクロレンズをもっていない方は、ぜひTokina atx-i 100mm F2.8 FF MACROを購入を検討する対象に入れることをおすすめします。100mmマクロらしい高い解像力と美しいぼけをぜひ体験してみてください。



    撮影協力:WORLD SQUARE 
    https://www.facebook.com/WORLDSQUARE1/


    【Text&Photograph:齋藤千歳】
    https://pasha.style/article/999

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