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  • [連載:ハマるとこわい!? オールドレンズの沼 其の壱]コンパクトなサイズと画面中央部の解像感、周辺光量落ちが魅力的
    ミラーレスカメラでMINOLTA M-ROKKOR 28mm F2.8を試す


 

キミはM-ROKKOR 28mm F2.8を知っているか

〜MINOLTA CLEMマウント広角レンズ〜

 

 



編集者・写真家の秋山薫と、写真家の水子貴晧です。


旧製品の交換レンズを現代のデジタルカメラで「撮ってみた」という感じで電子書籍の撮影・執筆・編集をしています。「ヴィンテージ」というと照れ臭いし、「クラシック」というほど古くもないものもあるし……


というわけで「オールドレンズデータベース」という名前の電子書籍を出しました。

 

今後はいろいろなオールドレンズを試していくつもりです。

光学設計の技術の推移が見て取れるかもしれないし、もしかしたら「現代のデジタルカメラでも意外といける」レンズを見つけられたらおもしろそう、というムシのいいことも考えています。


本稿ではそこからPASHA STYLEの読者のみなさんにむけて、人物ポートレート撮影でお役に立てそうな使いこなしの提案という視点でお話していきます。

 





今回取り上げる「MINOLTA M-ROKKOR 28mm F2.8」(1981年)はかつて存在した日本のカメラメーカーであるミノルタカメラ(当時)がレンジファインダーカメラ「MINOLTA CLE」用に開発した、M.ROKKORレンズシリーズに含まれる広角レンズです。

ライカマウント仕様で、ライカMシリーズや各種ライカMマウントカメラにも装着できます。現在ではむしろマウントアダプターを使って各社ミラーレスカメラで用いるほうがずっと使いやすいでしょう。57枚のレトロフォーカスタイプのレンズ構成を持ちます。

 

アタッチメントサイズはφ40.5mmで最大径×長さは約φ51 × 35.5mm、質量は135gとコンパクトなレンズです。軽いのですが、見た目よりもずっしりして精密感があります。

 

外観の意匠や文字などはライカレンズ風でカッコよく、レンジファインダー窓を邪魔しないようにスリットのある先端が細いレンズフードも純正で用意されていました。

 

最短撮影距離は80cm。

現代の一眼レフ用やミラーレスカメラ用レンズに比べると長く感じられますが、これはライカMマウントレンズのレンジファインダーの最短撮影距離が70cmまでとされているからです。距離リングつまみが設けられていて、ピント合わせがしやすいのも特徴です。レンズにある深度目盛から被写界深度を読み取って目測でピントを合わせてスナップ撮影をするユーザーも少なくなかったようです。

 

以下、筆者らが制作したAmazon Kindle電子書籍『MINOLTA M-ROKKOR 28mm f2.8 オールドレンズデータベース』をもとに解像力やぼけディスクなどの各種実写チャートなどから解説していきます。

 

 



解像力チャート

画面中央部分の解像感の高さには目を見張る

 

 

有効約 2420 万画素のSony α 7 III に装着しています。

中央部の解像感は絞り開放のF2.8からすばらしく、F4.0 からF11 までは不満を感じさせません。

一方、周辺部の描写には球面収差が原因らしく甘さが目につきます。F11 まで絞ると中央部に近い画質となりますが、細部コントラストがわずかに低くなります。

 

F16 からは小絞りぼけが確認できるので、被写界深度が必要な場合を除けば絞り値はF11 までにとどめるべきです。

 

 



解像力チャートについて

 

解像力のチェックには小山壯二氏のオリジナルチャートを使用し、各絞り値で撮影しています。

 

 






画面中央部は絞り開放のF2.8から解像感が高いのが特徴。

いっぽう周辺部分はF11まで絞れば中央部の画質に近くなります。

 

 

 

 



周辺光量落ちチャート

絞っても改善されないので、画像効果として活用したい

 

 

絞り開放から周辺光量落ちは顕著にみられ、これは絞っていっても大きく改善することはありません。前述のF11でもはっきりと見て取れます。

 

この周辺減光はむしろM-ROKKOR 28mm F2.8の特徴だと考えて、目立たせないような画面構成をするか、レンズの表現効果として活用したいものです。空などを写すときは絞り値を大きくして目立たせない、あるいは画面中心部に主要被写体を配置して目立たせるといった方法があります。

 



 

周辺光量落ちチャートについて

周辺光量落ちチャートは半透明のアクリル板を均一にライティングし、各絞り値で撮影しています。


 



画面の四隅がはっきりと暗くなるような光量落ちをします。F11でも開放のF2.8からはそう改善するわけではありません。

 

 



 

ぼけディスクチャート

ぼけを活かしづらい焦点距離だが、かたちは良好

 

 

M-ROKKOR 28mm F2.8は最短撮影距離が80cmと長く、用意したぼけチャートで前ぼけと後ぼけの両方を得るにはチャートが遠く、ぼけ像が小さくなり観察に不向きでした。

 

そのため撮影の際に利用しやすい前ぼけを観察しています。ぼけはドーナツ状になり色つきも見られますが、丸みを維持しているのでぼけの形としては良好といえるでしょう。

 

 



 

ぼけの形チャートについて

 

 

金属の大小の玉をランダムに配置し小型LED 一灯で照明し、玉ぼけが遠景近景でどう変化するか観察しやすい状態で撮影しています。チャートで観察するポイントは画像中央側と端側のぼけの形と円内の描写です。

 

 

前ぼけを観察しています。色つきはありますが丸みを帯びているのでぼけの形自体は悪くありません。

 

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャート

使い方の工夫で乗り切ろう

 

 

最短撮影距離は80cm

現代の一眼レフやミラーレス用広角レンズのようには近接できません。

ライカMマウントはレンジファインダーカメラが持つ構造的な影響から合焦範囲が制限されるため、多くの新旧ライカレンズが最短撮影距離70cm 付近と長くなってしまう制約があります。

 

M-ROKKOR 28mm F2.8も同様に近接撮影できないぶん、余分なものを画面に入れない撮り方や工夫が必要になります。

 

なお、ミラーレスカメラにヘリコイドアダプターを使用すれば、一眼レフ用レンズほどではなくても、ある程度の近接撮影は可能になります。この点からもミラーレスカメラで用いるほうが使いやすいでしょう。

 

 

 





最短撮影距離と最大撮影倍率チャートについて

 

 

小山壯二氏のオリジナルチャートを使っています。

切手やペン、コーヒーカップなど大きさのわかりやすいものを配置した静物写真を実物大になるようにモニターに表示。これを最短撮影距離で複写し、結果を観察しています。

(ここから先のチャート詳細は、電子書籍でお楽しみください。)

 

 

 

 

実写作例

主要被写体を中央部に配置したい

 

 

M-ROKKOR 28mm F2.8  Sony α 7III /絞り優先AEF2.81/80 秒)/ISO 100 WB:太陽光/クリエイティブスタイル:風景

奥の石橋にピントを合わせて撮影しました。中央はもちろん周辺の像を見ても、極端な収差は見られず、画角を活かした撮影を行うことができます。

(撮影:水子)

 

 

M-ROKKOR 28mm F2.8  Sony α 7II /絞り優先AEF4.01/10 秒)/ISO 400  WB5,000K /クリエイティブスタイル:ビビッド

日没頃の駅前にある電灯の光と街灯の影をねらいました。嫌な感じのフレアが見られないところはみごとです。

(撮影:秋山)

 

 

 



 

 

総評

画面中央の解像感の高さとコンパクトなスタイルは魅力的

 

 

オールドレンズをわざわざ使う理由はひとそれぞれでしょう。

高コントラストで絞り開放でも画面の隅々まで解像感が高く、逆光にも強いレンズがほしければ、最新のミラーレスカメラ用交換レンズを使うほうがラクチンです。

 

それでもあえて「古くて不便なもの」を使うのは、「外観の意匠がカッコいい」とか「独特の描写が捨てがたい」などという「持ち物で差別化したい」理由を考えつきますが、いろいろな工夫をして写真を仕上げることが楽しいからですよね。

 

MINOLTA M-ROKKOR 28mm F2.8は現在の製品よりも金属部品も多く使われていて、なんといっても意匠がカッコいい。それだけでも所有する理由に十分なりえます。そして1980年代の製品だけあり、描写もクラシックすぎず扱いやすいでしょう。

 

小型軽量なところもよく、Sony α7Cのような小型のカメラボディとの組み合わせがよく似合いそう。最短撮影距離の長さを工夫して使いたくなる魅力がありますし、所有していても誇らしく思えそうです。

 

ただし、MINOLTA M-ROKKOR 28mm F2.8は販売終了からだいぶ経つために、これから入手するにはいくつかの注意点があります。もっとも重要な注意点は、レンズに曇りが生じている個体が少なからずあること。純正修理はできないので、購入時には曇りのないものを選ぶべきです。また、スリット入り純正フードだけを単体で見つけることは難しいので、フードつきの製品を見つけたいものです。

 

 

人物ポートレート撮影では画面中心部の解像感の高さと周辺光量落ちをうまく活かせば、旅先でのスナップショットのような写真をドラマチックに撮ることができそうです。みなさんもぜひ工夫してみてください。筆者自身もコンディションのよいものを見つけたら手に入れたいと思います。

 

 

 

 







写真・文章:秋山 薫、水子貴晧 

技術監修:小山壮二 

 

 

 

 

著者略歴

 

秋山 薫(あきやまかおる)

編集者・写真家

1973 年生まれ。鉄道に興味があって写真を始め、いつのまにかカメラ・写真好きに。月刊カメラ誌編集部員、季刊カメラ誌編集長を経験。現在はおもにカメラ・写真関連記事の編集者・写真家として活動し、Kindle電子書籍『ぼろフォト解決シリーズ』『Foton 機種別作例集』の編集・執筆も行っている。

  



blog:https://saliut1500s.blogspot.com/

 

 

水子貴皓(みずこたかひろ)

写真家

大学在学中に写真・カメラの面白さ奥深さを知り、卒業後はフリーランスのスチールカメラマンとして活動を開始。現在では、スチールに加えムービーやドローン、360 度カメラなどを使い商業カメラマンとして活動しつつ拠点である岡山の風景を撮影。それら風景写真の展示・販売を行っている。

 

 


site:https://www.mizukotakahiro.com/








【企画:齋藤千歳】 

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