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  • [ 連載:マニアックレンズ道場6 ] SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary
    コンパクトで高性能な常用ポートレートレンズ


 

  

  

 


SIGMA Iシリーズのポートレートレンズをチェック

 

 

65mmF2.0という絶妙なスペックバランス

 

SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryは、シグマが新たなシリーズとして発表したIシリーズ。2021年3月頭現在、SIGMA 24mm F3.5 DG DN | Contemporary、SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary、SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporaryと本レンズの4本がラインアップされています。シグマのレンズには最高の光学性能と豊かな表現力を優先して設計されるハイエンドのArtラインがあります。ただし、大きく、重く、高価になりがちなラインともいえるでしょう。これに対してIシリーズは、高性能で小型・軽量を目指すContemporaryラインのプロダクト。このContemporaryラインのなかでも所有する喜び、使う度に感じる満足感を重視したシリーズがIシリーズです。小型・軽量でありながら、オーバークオリティともいえる高い工作精度で作られたレンズは、すでに多くのユーザーから高い評価を得ています。

今回は、このIシリーズで唯一の中望遠レンズSIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryについて詳細に解説していきます。対応マウントはソニー Eマウントとライカ Lマウント用がそれぞれ用意され、35mm判フルサイズに対応する仕様です。レンズ構成については9群12枚で非球面レンズが2枚に、SLD(特殊低分散)ガラスレンズが1枚。ぼけの味の重視されるポートレート向けの中望遠レンズとしては、2枚の非球面レンズの影響が気になるところといえます。ただし、絞り羽根は9枚羽根の円形絞りとなっているので、ぼけにはかなり配慮して設計されているのでしょう。実写での結果が楽しみです。

一般的に比較的リーズナブルでコンパクトな中望遠のポートレートレンズといえば、85mmF1.8あたりが、その代表格ですが、あえて、それより短く、暗い65mmF2という設計。これが光学性能にどのように影響してくるかは、後ほど詳細に検証するにしても、大きさや重さにはプラスに影響しているようです。今回テストに使用したソニー Eマウント用のSIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryで最大径が約72mm 、長さが約76.7mm、質量が約405gとかなりコンパクトに仕上がっています。

小型・軽量で使う度に所有する喜びが感じられるほど高精度に作られたSIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary。この光学性能を、筆者たちが制作する「SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B08TVYNJCP/)に掲載した実写チャートの結果を元に解説していきます。

 

 

 

解像力チャート

 

シャープな中央、絞るほどにシャープになる周辺部

 

SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryは、絞り開放から周辺部までバキバキに解像するレンズとしては少し小さいでしょう。また、シグマのなかでもArtラインではなく、Contemporaryラインの製品です。しかし、中央部に関しては、絞り開放のF2.0から、しっかりくっきりと解像しています。中央部の解像力だけを考えるなら、絞りは意識する必要がないほどです。また、周辺部の解像力も予想以上、開放のF2.0では多少あまさを感じる描写ですが、解像自体はしている状態になっています。絞るほどの周辺部の解像力は上がる傾向でF4.0からF8.0あたりが画面全体の解像力が高くおすすめです。単純にぼかすなら開放付近、全体解像力を重視するならF5.6からF8.0あたりを選択するとよいでしょう。

歪曲については、わずかに糸巻き型で発生しますが、気にするレベルではありません。色収差もほとんど観察されません。

テスト結果を参考にする際に、筆者たちはいまやカメラ本体のレンズ補正はオンが基本と考えていることを覚えておいてください。そのため、掲載した解像力チャートの結果は、Sony α7R III の初期設定である「レンズ補正」が「周辺光量補正」「オート」、「倍率色収差補正」「オート」、「歪曲収差補正」「オート」となっています。この点は、ほかの実写チャートを撮影する際も同じです。

 

 

解像力チャートについて


解像力のチェックには小山壯二氏のオリジナルチャートを使用し、各絞り値で撮影しています。

 


開放のF2.0でも周辺部まで解像はしています。F5.6前後あたりが画面全体の解像力を考慮するとおすすめといえます。

 

 

 

周辺光量落ちチャート


 

基本的に気にしなくてもよいレベル 

 

カメラ本体の「周辺光量補正」が「オート」となっている影響もあるのでしょうが、SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryの周辺光量落ちはさほど気にするレベルではありません。ただし、開放のF2.0では明確ではないものの、発生はしていますので、気になるシーンではF3.5以上に絞ることをおすすめします。開放付近を使ってぼかしたい、しかし周辺光量落ちは気になるというシーンではRAW現像時などの後処理で対処するのもありでしょう。

どちらにしても、周辺光量落ちが気になるタイプのレンズではありません。

 

 

周辺光量落ちチャートについて

 

周辺光量落ちチャートは半透明のアクリル板を均一にライティングし、各絞り値で撮影しています。



周辺光量落ちが発生してほしくないシーンでは、F3.5以上、だいたいF4.0以上に絞って使うことをおすすめします。

 

 

 

ぼけディスクチャート

 

 

予想以上にきれいなぼけに驚く

 

筆者は、SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryの弱点はぼけになると予想していました。なぜなら非球面レンズが2枚も使われているからです。一般的に非球面レンズが原因といわれることの多いぼけのなかに同心円状のシワが発生する輪線ぼけが発生すると予想していました。

しかし、結果は輪線ぼけの影響はほほ観察されません。おそらく±5nm(ナノメートル:0.000005mm)以下という高精度で管理されたグラスモールド非球面レンズ用金型で製造される高精度なグラスモールド非球面レンズは表面の微小な凹凸がほとんどないのでしょう。非球面レンズを採用しながら輪線ぼけがほぼ発生しない本レンズのぼけは非常に滑らか。ぼけのフチに発生する色付きは多少気になりますが、トップクラス級の質となっています。

ぼけの形については、さすがに9枚羽根の絞りを採用しているだけあり、F4.0あたりまで絞り羽根によるカクツキもなく優秀。しかも、F2.8あたりから中央部と周辺部のぼけの形がそろうのはすばらしい結果です。

 

 

ぼけディスクチャートについて

 

画面内に点光源を配置し、玉ぼけを撮影したものです。この玉ぼけ=ぼけディスクを観察し、形やなめらかさ、ザワつきなどを確認しています。

 


シグマの9枚羽根絞りは個人的にも高評価。形も質も美しいぼけが楽しめる1本にSIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryは仕上がっています。

 

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャート

 

せっかくなら、もっと寄れるといいのに

  

最短撮影距離は55cm、最大撮影倍率は0.15倍と聞いて、なんか50mmみたいと思った方、さすがです。筆者もそう思いました。SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryの場合、85mmと比較するか、50mmと比較するか悩みます。しかし、0.15倍はだいたい一眼レフ時代の50mmの標準レンズと変わらない結果です。一眼レフ時代の85mmと比較するなら0.12倍程度のものが多いので、それよりは優秀といった結果になります。どちらにしても平凡な結果。せっかくなら、もっと寄れると便利なのにと思うのは筆者だけではないでしょう。

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャートについて

 

小山壯二氏のオリジナルチャートを使っています。切手やペン、コーヒーカップなど大きさのわかりやすいものを配置した静物写真を実物大になるようにプリント。これを最短撮影距離で複写し、結果を観察しています。

 


65mmの単焦点レンズとして考えると比較対象が少ないので、わかりづらいですが、凡庸な印象の最短撮影距離と最大撮影倍率。

 

 

 

実写と使用感

 

常用したくなる大きさと重さ、そして工作精度

 


SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary/Sony α7R III/65mm/シャッター速度優先AE(F2.0、1/100秒)/ISO 800/露出補正:+0.7EV/WB:オート 散々暴れた後、力尽きて眠った息子を撮影。ISO感度はやや高めですが、まつげは数えられるレベルで解像しています。

 

 

筆者は、最近つくづく思うのですが、使いたくなるレンズには適度なサイズというものがあるのでしょう。SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryは、この条件を満たしていると思います。適度なサイズというのが、どのくらいかには個人差があるはずです。しかし、比較的わかりやすい同じようなサイズのレンズには、キヤノンのEF85mm F1.8 USMがあります。はじめて買うポートレートレンズという印象の強いEF85mm F1.8 USMですが、ほかの85mmを買っても、そのサイズから使い勝手がよくて手放せないと筆者は感じています。

SIGMA 65mm F2 DG DN | ContemporaryはEF85mm F1.8 USMと同じサイズ感で、さらにピントリングや絞りリングの質感にもこだわった高い工作精度で作られているので、普段から家のなかでも撮影したく、いつも着けておきたい常用レンズに仕上がっています。

 

 

作品レベルの高い解像力を楽しむ

  


SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary/Sony α7R III/65mm/マニュアル露出(F2.0、10秒)/ISO 4000/WB:色温度指定・3,500K ジュエリーアイスで有名な北海道・豊頃町のハルニレの木。絞り開放で撮影していますが、画質面に不安は感じません。

 

 

絞り開放F2.0と無理に明るく設計していないためか、周辺部も実用十分以上に解像します。そのため、絞り開放から安心して撮影できます。非球面レンズを採用しているため、ぼけが弱点かと思いましたが、実写チャートからもその心配がないことも確認済みです。画質優先の大型レンズであれば、絞らなくても周辺部がバリバリに解像するのに対して、本レンズは開放ではやや描写があまい点が異なる部分でしょうか。ただし、周辺部として考えると絞り開放から十分に解像しています。画質を気にすることなく、好きな絞りで撮影できる安心感もSIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryのよいところです。

 

 

クロップで100mm相当も活用したい

 


SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary/Sony α7R III/98.5mm相当/シャッター速度優先AE(F2.0、1/100秒)/ISO 800/露出補正:+1.0EV/WB:オート 少し撮影距離をとって撮影したいと考えてクロップの98.5mm相当で撮影しました。レンズの中心部分だけを使うので画質はさらに安定します。

 

 

筆者は多画素機であるSony α7R III(有効画素数:4,240万画素)を使っていることもあり、最近はクロップ(撮像素子の中央APS-C相当の範囲を使って撮影する機能)をよく使います。SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryでは、クロップすると98.5mm相当、約100mmの画角になるわけです。しかも開放F値は当然F2.0。さらに計算上ですが、100mm相当で最短撮影距離の55cmから撮影できるので、撮影倍率0.2倍近くに相当するアップで撮影することもできます。こちらもぜひ試してみてください。

 

 

 

総評

 

満足度の高いポートレートレンズとして常用したい

 

あえて弱点をあげるなら、絞り開放時に周辺部の解像がややあまいことでしょう。これも絞ると解決するので、神経質になる必要はありません。ポートレートレンズとして考えたときに、非球面レンズの影響が気になりますが、ぼけから輪線ぼけは観察されませんでした。ぼけもとても美しいレンズです。画質面で不満を感じることはないでしょう。

また、レンズのサイズは非常に扱いやすく、シグマIシリーズらしい高いビルドクオリティで作り込まれた操作部位は撮影をより楽しくしてくれます。特にピントリングのなめらかな操作感はぜひ一度試していただきたい。

使い慣れた85mmよりも、最初は広く感じる65mmという焦点距離も新鮮で、普段の風景や家族をもう一度撮影したくなる写欲を刺激するレンズです。

コンパクトで高画質、非常に優れたバランスのレンズに仕上がっています。ただし、デジタル補正を積極的に活用したレンズでもあるので、カメラのレンズ補正は初期設定のオートのまま、使うのがおすすめです。オフにすると歪曲がやや目立つので、この点には注意しましょう。

SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporaryは、現在最新のミラーレス一眼用レンズらしい、レンズの光学性能とカメラ本体のデジタル性能の相乗効果で、撮影するユーザーを幸せにしてくれる1本に仕上がっています。ぜひ、試してもらいたい最新のポートレートレンズです。

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

 

 

【Text&Photograph:齋藤千歳】 

https://pasha.style/article/999

 

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