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  • [ 連載:マニアックレンズ道場7 ] LAOWA 10mm F2.0 Zero-D
    周辺部まで驚くほどよく写る20mm相当の広角レンズ




LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFT 実写チャート性能評価

 

わずか約125gの10mmF2の基本スペックを確認

 

電子接点を搭載したラオワのMFTレンズ

 

LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTは、名のとおりMFT、すなわちマイクロフォーサーズ用のレンズです。当然、対応マウントはマイクロフォーサーズ。焦点距離は超広角の10mmですが、大きさは、最大径が約53mm、長さは41mmとコンパクトで、質量もわずかに約125gとなっています。とても10mmの超広角とは思えない軽量小型のレンズです。しかし、金属パーツが多用されており、質感も高く、ピントリングの操作感もなめらか。

レンズ構成は7群11枚で非球面レンズを2枚、EDレンズを3枚使用。絞り羽根は5枚です。非球面レンズや絞り羽根の枚数がぼけのどう影響するかは、興味深いところでしょう。

実勢価格は54,000円前後となっています。超広角ながら、前玉の膨らみが小さく46mm径の丸型フィルターがそのまま使える構造です。また、気になるラオワのレンズとしては珍しい電子接点を搭載していること。カメラ本体との情報のやりとりが可能な電子接点を搭載したLAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFT。この光学性能を、筆者たちが制作する電子書籍「LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFT レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0917YR53B/)に掲載した解像力やぼけディスクなどの実写チャートの結果を元に解説していきます。

 

 

解像力チャート

 

MFT用とはいえ、開放から周辺までしっかり解像

 

LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTの解像力チェックには、小山壯二氏のオリジナルチャートを使用。サイズはA1となっています。カメラはPanasonic LUMIX GX7 Mark IIを使ったため、有効画素数は約1,600万画素。基準となるチャートは1.2です。

MFT用とはいえ、焦点距離が10mmの超広角なので、さすがに周辺部はあまいだろうと考えていました。しかし、結果は非常に優秀。

中央部については、絞り開放のF2.0から、しっかりと解像。基準となるチャートよりもひとつ小さなチャートの1.1の一部まで解像しています。安定した中央部の解像力は絞ってもほとんどの変化なく、安定して発揮されます。

周辺部は、さすがに開放では解像しないかと思いました。しかし、周辺光量落ちなどの影響か、中央部に比べて多少コントラストが落ちてみえるものの、きちんと解像します。絞るほどに周辺光量落ちが軽減するのか、コントラストを取り戻しF5.6あたりでは、中央部と周辺部の差がほとんど感じられません。すばらしい結果です。

歪曲については糸巻き型で発生します。また、開放付近の周辺部では色収差も観察されました。

気を付けたいのは、絞り過ぎ。F8.0あたりからわずかに、F11以降では明確に、絞り過ぎによる解像力の低下がみられます。可能な限りF8.0までで使うことをおすすめします。

 

 

解像力チャートについて

 

解像力のチェックには小山壯二氏のオリジナルチャートを使用し、各絞り値で撮影しています。

 

 


 


すばらしい解像力を発揮するLAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFT。ただし、F11以降では解像力が低下するので注意したいところです。

 

 

周辺光量落ちチャート

 

絞れば解決する周辺光量落ちは優秀

 

焦点距離10mmの超広角なので、周辺光量落ちははっきりと発生するだろうと、筆者は予想していました。ラオワの超広角は、デジタルでの後処理で補正しやすい周辺光量落ちはあまり気にしない傾向にあるので、かなり周辺光量落ちを覚悟していたのです。しかし、結果はMFT用ということもあるのでしょうが、思った以上に軽微。

しかも、超々広角では周辺光量落ちが絞っても改善しないことはよくあるのですが、LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTは絞ると改善。筆者はF5.6あたりで、ほぼ気にならないレベルと感じています。

また、今回使用したPanasonic LUMIX GX7 Mark IIでは、初期設定で「シェーディング補正(周辺光量補正)」が「オフ」ですが、これを「オン」にするのも効果的です。

 

 

周辺光量落ちチャートについて

 

周辺光量落ちチャートは半透明のアクリル板を均一にライティングし、各絞り値で撮影しています。

 


掲載したチャートは初期設定で撮影しているため「シェーディング補正(周辺光量補正)」が「オフ」になっています。「オン」にするのもおすすめです。

 

 

ぼけディスクチャート

 

ぼけの質がよいだけに形が残念

 

LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTはMFT用とはいえ、焦点距離10mmの超広角で、しかもぼけの円のなかに同心円状のシワが発生する輪線ぼけの原因のひとつといわれる非球面レンズを2枚も採用しているので、あまり期待できないと考えていました。

しかし、実際にはチャートをみてもわかるように輪線ぼけの影響はほぼなく、ぼけのザワつきもない予想以上の結果です。ぼけのフチには色収差が原因と思われる色付きはありますが、広角レンズとは思えない美しいぼけが得られます。

ただし、ぼけの質がいいだけの残念なのが、ぼけの形です。わずかに絞ったF2.2からあからさまにぼけの形の5枚の絞り羽根の形が影響しています。せっかく美しいぼけの得られる広角レンズなので、絞り羽根にも配慮してほしかったといえるでしょう。

 

 

ぼけディスクチャートについて

 

画面内に点光源を配置し、玉ぼけを撮影したものです。この玉ぼけ=ぼけディスクを観察し、形やなめらかさ、ザワつきなどを確認しています。

 


10mmの超広角とは思えない美しいぼけが得られます。だからこそ、絞り羽根の影響によるカクツキが残念です。

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャート

 

ラオワの広角レンズらしい優秀な近接性能

 

ラオワの広角レンズは、近接撮影に強い寄れるものが多いことで知られています。LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTも最短撮影距離は約12cm、最大撮影倍率は0.15倍です。MFT用のレンズなので、35mm判に換算すると最大撮影倍率は約0.3倍なので、かなり近接に強いレンズといえるでしょう。

開放F値の2.0と最短撮影距離の短さを活用して、美しいぼけを活用するのがおすすめといえます。

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャートについて

 

小山壯二氏のオリジナルチャートを使っています。切手やペン、コーヒーカップなど大きさのわかりやすいものを配置した静物写真を実物大になるようにプリント。これを最短撮影距離で複写し、結果を観察しています。

 


上手に近接すると、大きなぼけも得やすく、印象的な写真のしあげることができるでしょう。上手に活用するのがおすすめです。

 

 

実写と使用感

 

ぼかすなら「開放」

 


LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTPanasonic LUMIX GX7 Mark II20mm相当/シャッター速度優先AEF2.01/160秒)/ISO 3200/露出補正:+1.3EVWB:オート

 

 

焦点距離が10mmしかないMFT用のレンズなので、ぼけないという印象が強いです。しかし、最短撮影距離が12cmと短いのと開放がF2.0と明るいのを上手に活用すると、予想以上に背景はぼけます。また、ぼけの質は超広角とは思えないほどよいのですが、絞りの形の影響を受けやすいので、ぼかすなら開放のF2.0を活用することをおすすめします。

ピントの合ったまつげもとてもシャープに解像してくれました。

 

 

画面全体で高い解像力を楽しむ

 


LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTPanasonic LUMIX GX7 Mark II20mm相当/絞り優先AEF8.01/250秒)/ISO 200/露出補正:+0.7EVWB:オート

 
LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTの解像力のピークはF5.6前後です。そのためF8.0を選択して撮影しました。MFTと撮像素子が小さいことと10mmと被写界深度が深いことを考えるとF5.6でもよかったかもしれません。

拡大し確認しても、画面全体を気持ちよいほどの高い解像力で描写しています。

ただし、F11まで絞ると解像力の低下がはじまるので、35mm判フルサイズなどよりも、絞らないのがポイントでしょう。

 

 

総評

 

高解像力でぼけもキレイ、しかもコンパクトで軽量

 

実勢価格54,000円前後のコンパクトで軽量な10mmの広角レンズLAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTは非常によく出来たレンズです。筆者が弱点と感じたポイントは、ちょっと絞ると絞り羽根の形がはっきりと玉ぼけに影響する点だけといっていいでしょう。

10mmの超広角なのに、ぼけの質はかなり高レベル。しかも解像力は画面周辺部まで絞り開放から超広角とは思えないほどの高いのです。また、周辺光量落ちも予想以上に少なく、絞ると解決します。さらに最短撮影距離が短く、明るい開放F値と組み合わせると、予想以上に背景もぼけるのです。

これだけ光学的に高性能だと、大きさや重さが気になりますが、質量はわずかに約125g。

MFTに装着すると20mm相当ですが、非常に幸せな広角レンズといえるでしょう。

さらに筆者はラオワレンズには珍しいのですが、LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTには電子接点が搭載されたことに非常に注目しています。ラオワのレンズは、フルマニュアルでカメラとの情報をやりとりする電子接点のないモデルがメインです。しかし、新しいレンズメーカーであるラオワは周辺光量落ちなどデジタルで補正しやすい部分は後処理で対処と感じられる設計のレンズが多いのも特徴といえます。

あとからRAW現像などパソコンで処理できるレンズの弱点は、カメラと情報をやりとりするレンズでは、カメラのデジタル処理で対処するのが、いまや常識です。

今回使用したカメラ・Panasonic LUMIX GX7 Mark IIでは「シェーディング補正(周辺光量補正)」の「オン」「オフ」しか確認できませんでした。とはいえ、ラオワがカメラ側のデジタル補正も活用した、より新しいレンズを投入してくるということは、LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTのように高性能でコンパクト、しかも現実的な価格のレンズが多数出てくることが期待できます。

LAOWA 10mm F2.0 Zero-D MFTはカメラ用の高性能レンズといえば「高い」「重い」「デカい」を過去のものにしてくれる新しい世代の幸せなレンズといえるでしょう。

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

 

 

【Text&Photograph:齋藤千歳】 

https://pasha.style/article/999

 

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