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    9000円以下でびっくりするほど高性能な1本


 

[連載:マニアックレンズ道場9]

9000円以下でびっくりするほど高性能な1

TTArtisan 35mm f/1.4 C 実写チャート性能評価

 
 
 

小型低価格のTTArtisan 35mm f/1.4 Cの概要

 

APS-C用の50mm相当となるフルマニュアルレンズ

 

TTArtisan 35mm f/1.4 Cは名匠光学(TTArtisan)の制作するAPS-C用のレンズです。キヤノン EF-M、ソニー E、ニコン Z、フジフイルム X、マイクロフォーサーズ、L(バヨネット)マウント用のものがそれぞれ用意されます。本レンズの最大の注目ポイントは、なによりも価格、実勢価格で9,000円を切るのです。いまどきのレンズとしては破格といえるでしょう。

レンズの大きさや質量は、最大径が約56mm、長さが50mm、質量が約180gです。金属パーツを多用しているので、もつとずっしり感はありますが、非常にコンパクトで軽いレンズになっています。電子接点のないフルマニュアルレンズですが、低価格なのにマウントはしっかりとした金属製。幅は薄いですが、絞りリングもピントリングも安っぽさはありません。外装のデザインもクラシックでシック、とても9,000円のレンズにはみえないでしょう。

また、光学系については、6群7枚のレンズ構成で、驚くほどシンプルなダブルガウス、特殊レンズは使用されていません。このあたりがコストパフォーマンスのよさの秘密なのでしょう。ただし、絞り羽根枚数は10枚と高級レンズに比べても多いくらいです。

APS-Cのカメラに装着すると50mm相当のF1.4と非常にコストパフォーマンスの高い標準レンズとして活躍するTTArtisan 35mm f/1.4 Cの性能を電子書籍「TTArtisan 35mm f/1.4 C レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0918VMKK5/)の掲載した各種実写チャートを元に解説していきます。

 

 

解像力チャート

 

APS-C用とはいえ、周辺部まで十分以上の解像力

 

解像力チェックには、小山壯二氏のオリジナルチャートを使用。サイズはA1でカメラはSony α7R IIIをクロップモード使用、有効画素数は約1,800万画素なので、基準とするチャートは1.2です。

中央部からみていくと、開放F1.4ではさすがに解像はしているものの、あまい印象が隠せません。ただし、F2.0あたりまで絞るとかなりシャープな印象になり、F2.8以降では解像力の高いシャープな描写といえます。F2.8以降は多少コントラストがアップする程度で中央部の高い解像力は変化しません。

さらに周辺部ですが、この価格帯のレンズの周辺解像力に筆者はあまり期待していませんでした。しかし、開放のF1.4はかなりあまいものの、絞るほどに徐々に解像力がアップ。F2.8あたりからは開放よりもワンランクアップという印象で、F5.6やF8.0では、ちょっと驚くほどの解像力を発揮します。完全に予想以上のすばらしい結果です。

ただし、F16まで絞ると絞り過ぎによる解像力低下が急激に起きるので、あまり使わないことをおすすめします。

歪曲収差についてはタル型で発生。色収差はかなり少なめです。

 

 

解像力チャートについて

 

解像力のチェックには小山壯二氏のオリジナルチャートを使用し、各絞り値で撮影しています。

 



開放はあまやかで、絞るとしっかりシャープな描写がチャートからもみてとれます。予想以上の描写です。

 

 

 

周辺光量落ちチャート 

 

F4.0以降では気にする必要はないでしょう

 

開放F値が1.4と明るく、カメラ本体のよるデジタル補正の恩恵が受けられないフルマニュアルレンズなので、それなりに周辺光量落ちが発生すると予想していました。実際、開放F1.4では四隅が落ち込むように周辺光量落ちが観察されます。しかし、この周辺光量落ちは絞ると効果てきめんに少なくなります。1段絞ったF2.0では、まだ若干残りますが、F2.8では実際の撮影では気にならないレベルに。さらにF3.5以降、わかりやすくはF4.0以降ではチャートでも気にならないレベルまで減少します。

TTArtisan 35mm f/1.4 CはF4.0以降では周辺光量落ちの気にならないレンズといえるでしょう。デジタル補正の恩恵を受けない光学性能だけの結果であることを考えると本当にすばらしい結果です。

  

 

周辺光量落ちチャートについて

 

周辺光量落ちチャートは半透明のアクリル板を均一にライティングし、各絞り値で撮影しています。



F4.0まで絞ると周辺光量落ちの影響は、まず感じません。実写であれば、F2.8以降で周辺光量落ちが気になることがほぼないでしょう。

 

 

 

ぼけディスクチャート

 

驚くほど素直でなめらかなぼけ

 

TTArtisan 35mm f/1.4 Cは6群7枚でダブルガウスという非常にクラシックでベーシックなレンズ構成です。しかも、非球面などの特殊レンズは1枚も使われていません。そのためか、ぼけの円のなかは、ザワつきもほとんどなく、非常になめらかです。ぼけの円のフチに色収差の原因と推察される色付きが若干あるほかは、非常にすばらしい質といえるでしょう。

ぼけの形については、10枚という非常に枚数の多い絞り羽根を採用していることもあり。絞ってもかなりなめらかな円形を保ちます。ただし、意地悪をいうのなら、絞りの形といった部分の設計なのでしょうが、10枚羽根にしては、少しカクツキが目立つ印象です。

とはいえ、TTArtisan 35mm f/1.4 Cのぼけは質・形ともに、その価格帯を無視したハイレベルなものになっています。

 

 

ぼけディスクチャートについて

 

画面内に点光源を配置し、玉ぼけを撮影したものです。この玉ぼけ=ぼけディスクを観察し、形やなめらかさ、ザワつきなどを確認しています。

 


とても9000円クラスのレンズのぼけとは思えない結果。信じられないほどなめらかで高品質なぼけといえるでしょう。

 

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャート

 

実質0.25倍の近接性能はかなり便利

 

TTArtisan 35mm f/1.4 Cの最短撮影距離と最大撮影倍率は28cmと非公開です。そのため、最大撮影倍率はわからないのですが、実写チャートの結果などから推察するとだいたい0.17倍程度のようです。比較的悪くない数字ですが、このレンズAPS-C用なので、35mm判フルサイズに換算すると約0.25倍程度の近接撮影性能があります。一般的に35mm判フルサイズの50mm単焦点が0.15倍程度の最大撮影倍率であることを考えるとTTArtisan 35mm f/1.4 Cは50mm相当の画角で0.25倍程度の最大撮影倍率が得られるので、かなりマクロ撮影に強いといえます。実際、食事や料理などを撮影するにも便利です。

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャートについて

 

小山壯二氏のオリジナルチャートを使っています。切手やペン、コーヒーカップなど大きさのわかりやすいものを配置した静物写真を実物大になるようにプリント。これを最短撮影距離で複写し、結果を観察しています。



思った以上に寄れるので、積極的にアップでの撮影を楽しみたいレンズです。おかげで撮影の幅も広がります。

 

 

 

実写と使用感

 

思った以上にピントが合う



TTArtisan 35mm f/1.4 C/Sony α7R III/53mm相当/シャッター速度優先AE(F1.4、1/200秒)/ISO 1600/露出補正:+1.0EV/WB:オート

 

AF機構どころか、電子接点すら搭載しないTTArtisan 35mm f/1.4 Cは、当然マニュアルフォーカスでのピント合わせになります。50mm相当で開放のF1.4となると、ピント合わせはかなりシビアなので、合焦率はどうかと思っていたのですが、ピーキングとの組み合わせではかなりの確率でピントが合い、気持ちのよいほどでした。また、ピントが合った瞳のシャープな描写。背景のぼけのなめらかさは非常に好印象です。子ども撮影するのにはじめての単焦点やマニュアルレンズを検討している人にもおすすめです。

 

 

風景写真はしっかり絞って


TTArtisan 35mm f/1.4 C/Sony α7R III/53mm相当/絞り優先AE(F8.0、1/250秒)/ISO 100/露出補正:+0.3EV/WB:オート

 

TTArtisan 35mm f/1.4 Cの画面全体の解像力のピークはF8.0前後です。そのため、画面全体に高い解像力を必要とする風景写真などでは、しっかりと絞ることをおすすめします。逆に絞り開放付近では画面全体にややあまい表現が楽しめますので、ポートレートなどでは、こちらを活用するとやわらかな描写は楽しめます。このふたつの描写を理解すると、TTArtisan 35mm f/1.4 Cはあまやかにも、シャープにも撮れる、よりコストパフォーマンスの高いレンズになるでしょう。

価格の点も含め、高価で高性能なレンズコーティングは行われていないので、標準では付属していませんが、ねじ込み式のレンズフードを使うことをおすすめします。レンズフードを使うとレンズ内の内面発射反射などを軽減し、光線状態の悪い条件でもよりコントラストの高い鮮明な画像が得られるはずです。

 

 

 

総評

 

安くて、すごくおいしいワインをみつけたような1

 

実勢価格9000円以下のレンズというと、まるでトイ(おもちゃ)レンズのような印象すらあります。それが、ここ数年でもっとも驚くほど高性能なんてことは、ある意味奇跡のような確率です。なんとなく、価格、ラベルのデザインで買った、よく知らない国の500円程度のワインが激うまだったときのような感動といえるでしょう。もう、会う人、会う人にすすめたい、なんなら買っていって飲ませたい、そんな印象のレンズがTTArtisan 35mm f/1.4 Cです。

開放ではあまやかな描写、絞れば画面周辺までシャープ、しかもぼけも美しい。周辺光量落ちも少なく、近接にも強いとくれば、もう友達みんなにすすめたいレンズといえます。APS-C用で50mm程度という焦点距離も入門者はもちろん、上級者も楽しめる画角でしょう。子どもを撮影するために大きくぼける単焦点を検討している方やマニュアルレンズを使ってみたいという方にもおすすめです。

唯一、注意点があるとすれば、筆者の試写した条件ではあまり発生しなかったのですが、特定の撮影条件で流れるというか、回転するようなぼけ描写になることでしょうか。ほかの性能がすばらしいので、この点はあまり気にしなくてもよいと思います。

TTArtisan 35mm f/1.4 Cは、安くて軽くて小さくて、しかも高性能という、友達みんなにすすめたい、そんなレンズです。

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

 

 

【Text&Photograph:齋藤千歳】 

https://pasha.style/article/999

 

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