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[連載:マニアックレンズ道場10] TTArtisan 50mm f/1.2 C
1万5000円以下で買えるF1.2の75mm相当
[連載:マニアックレンズ道場]
15,000円以下で買える開放F1.2の75mm相当
TTArtisan 50mm f/1.2 C 実写チャート性能評価
超明るいTTArtisan 50mm f/1.2 C概要
APS-C用75mm相当で15,000円切る単焦点
TTArtisan 50mm f/1.2 C は、開放F値が1.2と非常に明るい標準単焦点レンズです。APS-C用のレンズなので、APS-Cのカメラに装着すると35mm判換算76mm相当の画角になるポートレート撮影に向いたレンズといえるでしょう。対応するマウントは、キヤノン EF-M、ソニー E、フジフイルム X、マイクロフォーサーズ用のものがそれぞれ用意されています。注目のポイントは価格。開放F1.2と非常に明るいのですが、実勢価格はなんと14,000円前後、場所によっては13,000円台で入手可能です。当たり前ですが開放F値が明るいということは、それまで使っていた暗いレンズよりも大きなぼけが期待できるわけです。
レンズ構成は5群7枚で非球面などの特殊レンズはなし。大きさは最大径が約62mm、長さが約55mm、質量は約335gとなっています。金属パーツを多用しているため、手にとるとずっしりとした感触です。フィルター径は52mm。ぼけの形に配慮してか、低価格なレンズですが絞り羽根は10枚と豪華な仕様になっています。
APS-C用の非常に明るいポートレート撮影を意識させる焦点距離のTTArtisan 50mm f/1.2 C。この気になる実際の性能を電子書籍「TTArtisan 35mm f/1.4 C レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B091MT4F4K/)の掲載した解像力などの各種実写チャートを元に解説していきます。
解像力チャート
やわらかな開放付近の描写、がっちり絞れば解像力アップ
解像力チェックには、A1サイズの小山壯二氏のオリジナルチャートを使用。TTArtisan 50mm f/1.2 CをSony α7R IIIに装着しクロップモードで撮影しているので、有効画素数は約1,800万画素。基準となるチャートは1.2です。
開放F値が1.2と非常に明るいので、開放でどこまで解像するか、不安に思っていました。しかし、中央部は若干あまいものの、それなり解像しています。ただし、周辺部はかなりあまい印象です。絞っていくと、中央部はF2.8あたりでしっかりと解像力がアップ。中央部の解像力はF2.8から絞り過ぎで解像力が低下するまで、しっかりキープされる印象です。気になる周辺部の解像力は、絞ると徐々に改善されますが、中央部のようにF2.8といった明るい絞り値では大きく改善されません。周辺部を含めた画面全体の解像力のピークはF8.0からF11あたりになります。大きく絞ると周辺部も解像してくるといったイメージです。
しかし、むやみに絞るとF13あたりからは、絞り過ぎによる解像力低下、回折や小絞りぼけが発生するので、絞り過ぎには注意してください。
歪曲についてはタル型、色収差は気になるほどではありませんが開放の周辺付近で発生します。
解像力チャートについて
解像力のチェックには小山壯二氏のオリジナルチャートを使用し、各絞り値で撮影しています。
開放付近はかなりやわい、あまやかな描写です。画面全体に解像力がほしいときはがつんと絞ることをおすすめします。
周辺光量落ちチャート
F2.8以降は気にする必要のない優秀な結果
開放F値が1.2と明るいうえに、カメラ本体によるデジタル補正の恩恵が受けられないフルマニュアルレンズなので、それなりの周辺光量落ちが発生することを覚悟していました。しかし、APS-C用のレンズというアドバンテージもあり、絞り開放のF1.2でも周辺光量落ちは、四隅が若干暗くなっていることがわかる程度の軽微なものです。
しかも、この周辺光量落ちは絞りを絞るとしっかりと改善される傾向で、軽く絞ったF2.0あたりでほとんど気にならないレベルになります。周辺光量落ちにシビアなシーンでは、さらに1段絞ったF2.8以降としておくと、気になることはまずないでしょう。
デジタル補正なしの光学性能のみの結果であることを考えるとすばらしい結果です。
周辺光量落ちチャートについて
周辺光量落ちチャートは半透明のアクリル板を均一にライティングし、各絞り値で撮影しています。
開放のF1.2では、かなり明確な周辺光量落ちが発生するかと思ったのですが、影響は軽微。F2.8以降では周辺光量落ちの影響が気になることはないでしょう。
ぼけディスクチャート
最高クラスのなめらかで素直なぼけ
TTArtisan 50mm f/1.2 Cのぼけディスクチャートの結果だけをみて、このぼけが1万円台のレンズの結果だと考える人は、まずいないでしょう。普通に評価して高級レンズの最上級クラス並みといえる結果です。ぼけの円のフチへの色付きはありますが、ぼけの円のなかのなめらかさ、ザワつきのなさなどは本当にすばらしい。高品質で大きなぼけは存分に楽しめるでしょう。
ちょっと気になるのは、ぼけの形です。F2.0あたりまで絞ると中央部と周辺部のぼけの形がそろうのはよい傾向といえます。しかし、10枚羽根と羽根の枚数は多いのですが、絞り羽根の形がいまひとつでぼけの形が手裏剣というか、星形のようになってしまうのは残念です。絞り羽根の枚数だけではなく、形にももうひと工夫してほしいと感じました。
ぼけディスクチャートについて
画面内に点光源を配置し、玉ぼけを撮影したものです。この玉ぼけ=ぼけディスクを観察し、形やなめらかさ、ザワつきなどを確認しています。
とても9,000円クラスのレンズのぼけとは思えない結果。信じられないほどなめらかで高品質なぼけといえるでしょう。
最短撮影距離と最大撮影倍率チャート
ポートレートレンズとしては優秀
TTArtisan 50mm f/1.2 Cの最短撮影距離50cm、最大撮影倍率は非公開。ただし実際に撮影したチャートの結果などから本レンズの最大撮影倍率は0.15倍前後と推察されます。35mm判フルサイズ用の50mmの一般的な最短撮影距離は45cm前後で最大撮影倍率は0.15倍程度、85mmは80cm前後で0.12倍程度が一般的です。そのため50mmと考えると一般的、85mmと考えると優秀な結果といえるでしょう。しかし、TTArtisan 50mm f/1.2 CはAPS-C用のレンズなので35mm判に換算すると0.2倍をわずかに超える程度の最大撮影倍率が得られます。
多くのポートレートレンズに比べて寄れるので、人物をアップで撮影しやすく便利です。
最短撮影距離と最大撮影倍率チャートについて
小山壯二氏のオリジナルチャートを使っています。切手やペン、コーヒーカップなど大きさのわかりやすいものを配置した静物写真を実物大になるようにプリント。これを最短撮影距離で複写し、結果を観察しています。
中望遠のポートレートレンズと考えると、寄れるのでアップが撮影しやすくて便利です。大きなぼけも得やすくなります。
実写と使用感
やわらかくあまい描写がクセになる
TTArtisan 50mm f/1.2 C/Sony α7R III/76mm相当/シャッター速度優先AE(F1.2、1/200秒)/ISO 250/露出補正:+1.0EV/WB:オート
TTArtisan 50mm f/1.2 Cの絞り開放F1.2は中央部分の描写もあまくなりますし、周辺部に至ってはかなりやわらかくあまい描写です。これについては好みもかなりありますが、子どもや女性を撮影するにはかなりいいと筆者は思っています。当然、開放のF1.2は明るいので大きなぼけも発生しますし、これにプラスしてやわらかな描写はやさしい印象で人物を描写するのに向いているのです。
また、ピント合わせはマニュアルフォーカスなので、かなり難易度が高いかと思いましたが、ピーキングとの相性がよいようでファインダー、背面モニターともにかなり高確率でピント合わせができました。
風景などは、がっつり絞って
TTArtisan 50mm f/1.2 C/Sony α7R III/76mm相当/シャッター速度優先AE(F11、4.0秒)/ISO 800/WB:晴天
TTArtisan 50mm f/1.2 Cで周辺部まで、画面全体で高い解像力を得たいと考えるときは、F8.0~F11くらいまでしっかりと絞ることをおすすめします。F4.0やF5.6といったやや絞ったくらいでは、周辺部の解像力はあまりアップしない印象です。解像力という点ではF8.0もF11も甲乙つけがたいですが、筆者はより被写界深度もかせげるF11をおすすめします。
効果なコーティングを施せる価格のレンズでないためか、しっかりと光条の発生する逆光部分のコントラストがあまくなる傾向です。可能なシーンでは強い光源を画面内に入れないようにするとよいでしょう。
総評
はじめての単焦点やマニュアルレンズとしておすすめ
35mm判フルサイズのミラーレス一眼などの普及率が上がっているとはいえ、エントリーなどのレンズ交換式デジタルカメラは普通のAPS-C機でしょう。そして、多くのユーザーがカメラ本体といっしょにセットのズームレンズを購入して撮影しているのではないでしょうか。しかし、セットのズームレンズでは、レンズ交換式のカメラでプロのような背景が大きくぼけた写真を撮るのが難しいという現実に悩んでいる方もいるでしょう。子どもが生まれたから高いカメラを買ったのに大きくぼけた写真が思ったように撮れないという方もいると思います。そんなときに、おすすめするのが明るい単焦点レンズなのですが、現実問題そこそこのお値段がするわけです。それに対してTTArtisan 50mm f/1.2 Cは、F1.2と開放F値が小さいため、よくぼけますし、しかも実勢価格は15,000円以下。マニュアルフォーカスが弱点ともいえますが、逆に考えるとはじめてのマニュアルフォーカスレンズが体験できると考えれば、一石二鳥ともいえます。
また、絞り開放付近のやわらかくあまやかな描写は好き好きがあり、使用シーンは選びますが、子どもや女性のポートレートを撮影するなら、独特の描写は初心者だけでなく、上級者にもおすすめです。そして、シンプルでベーシックなレンズ構成から発生する大きくなめらかなぼけはとても魅力的です。
コストパフォーマンスの高い、マニュアルポートレートレンズとして、ぜひ多くの方に楽しんでもらいたいレンズになっています。
(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)
【Text&Photograph:齋藤千歳】
https://pasha.style/article/999
マニアックレンズ道場シリーズ