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  • [連載:マニアックレンズ道場12] Canon RF70-200mm F4 L IS USM
    驚くくらいコンパクト、しかもそつなくすべてが高性能な望遠ズーム


 

70-200mmF4とは思えないほど小型軽量、そしてしっかり高性能

 

歪曲収差補正は初期設定でオンでもいいのでは?

 

今回は「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」をレビューします。筆者は、電子書籍「Canon RF70-200mm F4 L IS USMレンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0959878HQ)を制作するために、「解像力」「ぼけディスク」「軸上色収差」「最大撮影倍率」「周辺光量落ち」「サジタルコマフレア」「歪曲収差」といった各種チャートやテスト、さらに実写作例も撮影済みなので、本レンズのおすすめポイントと結論からお伝えしたいと思います。


Canon RF70-200mm F4 L IS USMのおすすめポイントは

「70-200mmF4のイメージが変わるほど軽量コンパクト」

「想像以上になめらかで質も形も上質なぼけ」

「絞り開放でも十分以上、絞ればさらにアップする解像力」

「純正レンズならではAF機能、手ぶれおよび各種収差補正」

の4つ。

もっとも残念に思った点は

「歪曲収差補正が初期設定でオフ」

になっていることです。


そのため、「コンパクトで高性能な、しかも快適な70-200mmを検討している」という方には、非の打ち所のないよいレンズです。また、純正レンズならではの各種補正機能も存分に利用できます。しかし「さすがに純正の望遠白レンズだけあり20万円前後」とリーズナブルなレンズを探している方にはおすすめできません。


この結論に至った理由を各種チャートなどから解説していきます。

 

 

驚くほどコンパクト

 

従来モデル比約32%短縮されたレンズ長

 

キヤノンだけではなく、多くメーカーにおいて、70-200mmといえば、そのメーカーを代表するような高性能な花形レンズがラインアップされる焦点距離です。キヤノンの場合は一眼レフ時代から70-200mmF2.8と70-200mmF4がラインアップされており、70-200mmF2.8は大三元の望遠ズーム、70-200mmF4は小三元の望遠ズームとして人気と憧れの的になっています。

70-200mmF2.8はズーム時にレンズ鏡筒部が伸縮しない固定タイプのかなり大きなレンズで、70-200mmF4もこれをひとまわり小さくしたような外観デザイン。また、現在ではキヤノンなどの高級望遠ズームの象徴となっている白を基調とした外装は、白レンズなどと呼ばれ、ステータスアイテム的な側面もある高性能ズームレンズです。

この最新版である「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は、レンズが伸縮する構造を採用し、焦点距離70-200mm、開放F値4.0のレンズとして世界最短・最軽量を実現しました。

 

 

 

同社WEBでも望遠ズームなのに「標準ズームと同等のサイズ感」と紹介しています。筆者もはじめて手にしたときに「完全に24-70mmF2.8と同じサイズ感」だと思ったほどです。完全に従来の70-200mmF4のサイズ感を超えた、コンパクトさに驚きました。

 

 

いままでは、同じようなサイズ感の広角ズームと標準ズーム、これに、2本を合わせたようなサイズの望遠ズームまで持っていくと、用意しなくてはいけないカメラバッグのサイズも大きく変わっていました。しかし「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」なら広角ズームと望遠ズームの2本入れていたカメラバッグに、標準ズームもしくは広角ズームの代わりに、そのまま収まることも多いでしょう。


 

ちょっとしたスナップ撮影の際に広角ズームと標準ズームを入れていたカメラバッグに標準ズームと望遠ズームといった組みあわせも可能になるので、撮影の幅も広がります。

ただし、レンズフードは望遠レンズ向けのごついもので最大径が10cmを超えてくるので、フードのサイズには配慮しておきたいところです。

どちらにしても「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は、これまでの高性能な70-200mmの概念を変えるほどのコンパクトなレンズに仕上がっています。また、筆者個人は広角ズームと標準ズームにも同様の白バージョンを用意してほしいと思うほど、標準ズームサイズの白いCanon RF70-200mm F4 L IS USM」はかっこいいのも魅力です。

発売されたばかりなので、耐久性はわかりませんが、実際に触ってみると非常にビルドクオリティが高く、操作時のガタつきや安っぽさはまったくありません。

筆者は同性能なら、軽くて小さいレンズが正義だと思っているので、Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は非常に魅力的な望遠ズームレンズです。

 

 

なめらかで美しいぼけ

 

輪線ぼけの影響がない素直なぼけ味

 


Canon RF70-200mm F4 L IS USM/EOS R5/200mm/絞り優先AE(F4.0、1/125秒)/ISO 2500/露出補正:+1.0EV/WB:オート/ピクチャースタイル:オート

 

コンパクトで高性能なレンズを目指して設計されたと推察される「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は、UDレンズは4枚と多めに使われていますが、意外なことに実は非球面レンズが1枚も使われていません。

その成果は実写作例の背景からも美しいぼけにつながっていることがみてとれますが、チャートでも確認してみましょう。

 


 


 

上が70mmのぼけディスクチャート、下が200mmのぼけディスクチャートです。ぼけディスクチャートは、画面内に玉ぼけを発生させ、その形や質からぼけの形や質を判断します。基本的には、ぼけの形は真円に近いほどよく、質についてはぼけディスクに余計なフチ付きや色付きがなく、内部のザワつきなどがなくフラットなものがよいとされています。

また、非球面レンズが原因とされることが多いのですが、ぼけのディスクのなかに同心円状のシワが現れる輪線ぼけやタマネギぼけと呼ばれるザワつきも好まれません。

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」の場合、70mm側、200mm側ともにフチ付きは観察されるものの、余計な色つきはなく、ザワつきもほとんどありません、非球面レンズも使っていないので輪線ぼけの影響もなく、9枚羽根の円形絞りが作るぼけの形にもカクツキがほぼない優秀な結果です。

まるでぼけのきれいな単焦点レンズのような、ズームレンズ離れした、非常に美しいぼけが得られます。

また、「EF70-200mm F4L IS II USM」では約100cmだった最短撮影距離が60cmまで短くなったので、作例のように室内で動き回る子どもを撮影するのにも便利です。ただし、最大撮影倍率は0.27倍が0.28倍となっただけなのでほとんど変化はありません。かなりフォーカスブリージングが大きいようで、最短撮影距離が短くなった分、大きく撮影できるかと期待したので、少し残念です。

 


Canon RF70-200mm F4 L IS USM/EOS R5/200mm/絞り優先AE(F4.0、1/250秒)/ISO 320/露出補正:+1.0EV/WB:オート/ピクチャースタイル:オート

 

最大撮影倍率に大きな変化はありませんが、0.3倍近いアップでの撮影が可能なので、写真のようにオオバナノエンレイソウもかなりアップで撮影できました。近接では大きなぼけが発生しやすいので、美しいぼけを存分に楽しむことができると思います。

 

 

開放から高い中央解像力

 

開放から実用十分で、絞ればよりシャープに

 


Canon RF70-200mm F4 L IS USM/EOS R5/70mm/絞り優先AE(F8.0、1/250秒)/ISO 100/露出補正:+0.3EV/WB:オート/ピクチャースタイル:オート

 

 

開放F値が少し暗めの「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は、絞り開放から高い解像力を発揮するように設計されていると推察されます。そして、実際にF8.0で撮影した畑と防風林の写真は、周辺部に至るまで、かなりシャープ。

大ざっぱにいうなら、絞り開放付近で、中央部分は実用十分以上の解像力をもっているので、F4.0でも問題なく撮影可能です。ただし周辺部分までしっかり解像するならF8.0~F11あたりまで絞りたいところ。光の量など撮影条件が許すシーンでは、絞っての撮影がおすすめです。

この解像力傾向をチャートで、さらに詳細に確認しましょう。



 

まずは広角端の70mmからです。A2サイズの小山壯二氏オリジナル解像力チャートを撮影した結果になります。有効画素数4,500万画素のEOS R5で撮影しているので、基準となるチャートは0.8。

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」の70mmは中央部分の解像力は絞り開放から非常に高く、周辺部を気にしないなら、好きな絞りで撮影して問題ないでしょう。また、周辺部分は、絞り開放付近では実用には問題はありません。しかし、きっちり周辺部分まで解像させるならF8.0前後をおすすめします。ただし、絞り過ぎによる解像力低下が意外と早く、F13あたりから影響が出はじめるので、絞り過ぎには注意しましょう。

続いて、望遠側の200mmです。

 


 

望遠側200mmでもテスト条件はいっしょです。最大の特徴は開放のF4.0がわずかにフワッとすることでしょうか。F4.5まで絞ると消えてしまうので、本当に開放だけがわずかにやわらかくなります。これは覚えておくと、同じポートレートで背景を200mmで大きくぼかしたいと考えても、やわらかく撮影した女性ポートレートではF4.0、力強く撮影したい男性ポートレートではF4.5などという使いわけもできるかもしれません。

広角側の70mmと同じように中央部分の解像力は絞り開放から高く、あまり神経質になる必要を感じません。

ただし、実用には問題を感じることはないでしょうが、絞り開放付近はややあまい傾向です。絞ると、解像力が上がる傾向なので、光量に余裕があるシーンや三脚を使っているときはF11前後まで絞ることをおすすめします。

 


Canon RF70-200mm F4 L IS USM/EOS R5/70mm/絞り優先AE(F4.0、1/500秒)/ISO 100/WB:オート/ピクチャースタイル:オート 

 

上の作例のように開放のF4.0で硬質な被写体を撮影しても、十分にシャープな画質で応えてくれます。

しかし、チャートの結果から、少し細かく撮影時の運用を考えるなら、シャッター速度を優先するシーンや特に200mm側でやわらかな表現をねらうときは開放のF4.0。光量は十分ではないが、少しシャープにしたいときはF5.6前後、光量に余裕があったり、三脚を使っていたりするシーンではF11前後がレンズの性能を十分に引き出せる選択といえるでしょう。

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は絞れば、周辺部分までしっかり解像しますし、開放でも実用に十分な解像力をもっています。ただし、筆者が勝手にRFの白レンズの期待した超絶高解像という印象ではありませんでした。とはいえ、十分に高性能です。

 

 

充実のレンズ・カメラ機能

 

7.5段相当の手ぶれ補正、素早い瞳AF



Canon RF70-200mm F4 L IS USM/EOS R5/200mm/シャッター速度優先AE(F4.5、1/500秒)/ISO 1000/WB:オート/ピクチャースタイル:オート

 

作例は北海道音更町のエゾリス。今年生まれたばかりの子リスだと思われます。4きょうだいでじゃれ続ける彼らを望遠ズームレンズで追い、AFを合わせ続けるには慣れが必要です。しかし、EOS R5では、「AF方式」「顔+追尾優先AF」、「検出する被写体」「動物優先」、「瞳検出」「する」などにしておけば、フレーミングのなかにリスをとらえておけば、自動で瞳にピントを合わせてくれます。しかも、確率も高く、動作も速い。

「顔+追尾優先AF」に慣れてしまうと「最近、瞳のないものにAFの位置を指定して撮影するのが面倒に感じる」などいう言葉が出るほど快適です。

 


  

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」にはIS(手ぶれ補正機構)、フォーカスリミッター(AFでピントを合わせる範囲を限定する)、ISの動作モード設定などのスイッチ類が装備されています。

そして、IS(手ぶれ補正)の効果は、EOS R5やEOS R6との組み合わせでは最大7.5段分、EOS RやEOS RPでは最大約5.0段分と、サードパーティー製レンズどころか、キヤノン純正同士でもカメラとレンズの組みあわせを選ぶほど。それほど、カメラとレンズが緊密に情報をやりとりして、お互いの性能を極限まで、引き出しているのでしょう。

確かに「顔+追尾優先AF」に最大約7.5段分の手ぶれ補正など、撮影していて体感でわかるようなシステムとしての純正レンズの快適さを「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は感じさせてくれます。

しかし、体感できない部分でも充実したレンズ・カメラ機能が発揮されている部分があります。

それが「レンズ光学補正」です。

 


 

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」とEOS R5での組みあわせでは「レンズ光学補正」のメニューのなかには「周辺光量補正」「歪曲収差補正」「デジタルレンズオプティマイザ」があります。そして初期設定では「周辺光量補正」「ON」、「歪曲収差補正」「OFF」、「デジタルレンズオプティマイザ」「標準」です。

効果がわかりやすいので、上に「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」の望遠端200mmでの周辺光量落ちの様子を観察したチャートを掲載しました。基本的に初期設定で「周辺光量補正」は「ON」なので、Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は望遠端の200mm以外でも周辺光量落ちの影響を考えなくてよいレンズになっています。しかし、「周辺光量補正」の効果を意図的に外すと上の「周辺光量補正:オフ」のように、周辺光量落ちの影響が観察されます。

実はCanon RF70-200mm F4 L IS USM」は、周辺光量落ちだけでなく、各種収差の影響が少ないのですが、これには「デジタルレンズオプティマイザ」などが有効に働いていることが推察されます。

レンズとカメラが緊密に情報をやりとりして、撮影者をサポート、さらにはより美しい画像を得られるように、確実で高速に充実したレンズ・カメラ機能が動作するのは、まさに純正レンズのアドバンテージでいえるでしょう。

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」は撮影が本当に快適です。

 

 

歪曲収差がやや目立つ

 

歪曲収差補正はオンにしておきたい

 

すべてにおいてレンズとカメラが高度に連携して快適な撮影条件を生み出してくれる「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」とEOS R5ですが、筆者には理解できない部分があります。

それは初期設定で「歪曲収差補正」が「OFF」なことです。

最新のミラーレス一眼用レンズでは、設計時点から歪曲収差の補正は、カメラ本体のデジタル補正に任せて、その分ほかの収差などを減らして、より高性能で、最終的にユーザーに美しい画像を提供できるレンズを目指すのは、すでに王道的なレンズ設計思想だと思います。しかし、初期設定で「歪曲収差補正」が「OFF」なのです。


 



 

撮影条件は200mmのF4.0で写真上「歪曲収差補正」「OFF」、写真下「歪曲収差補正」「ON」を掲載しました。掲載した200mm側では糸巻き型に、広角端ではタル型に歪曲が発生します。発生量も多少ありCanon RF70-200mm F4 L IS USM」はカメラ本体による「歪曲収差補正」が可能なことを前提とした、最新のレンズ設計に感じられます。

そのため、多くのメーカーのカメラでは、初期設定で「歪曲収差補正」「ON」が一般的です。しかし、キヤノンは「歪曲収差補正」を「ON」にすると、ファインダー撮影時に見えていた範囲よりも、歪み補正を行った撮影画像が狭い範囲を記録したものになる、そして画角がわずかに変化することを配慮して、「OFF」を初期設定にしているのでしょう。

ただし、筆者は、この初期設定が一般のユーザーにわかりやすいかは疑問です。少なくともCanon RF70-200mm F4 L IS USM」のように、歪曲収差補正ありきで設計したと思われるレンズについては、初期設定で「歪曲収差補正」が「ON」のほうが親切なのではないでしょうか。

Canon RF70-200mm F4 L IS USM」で歪曲収差が気になるときは、カメラの「歪曲収差補正」を「ON」するか、RAW現像で対応しましょう。

 

 

まとめ

 

すべてにおいてそつのないさすがの純正レンズ

 

たまたま、エゾリスやオオバナノエンレイソウの撮影をアテンドしていただいた方々もEOS R5と純正レンズの組み合わせだったのですが、みなさん「カメラとレンズが快適過ぎて、人間がダメになると思う」といいます。また、開放はF4.0とやや暗いですが、開放でも安心して撮影できる実用に十分な解像力、しかも絞れば周辺部分まで画質は向上、ズームレンズとは思えない美しいぼけ、約60cmと短い最短撮影距離と高いレンズ光学性能も、細かなことに気を使わなくても、撮影に集中できる条件がそろっています。さらに、70-200mmF4史上もっともコンパクトで軽量なレンズサイズは、撮影フィールドでの軽快な動作を後押ししてくれます。まさに「撮ること」を最優先した素晴らしいレンズといえるでしょう。

最後のハードルは約20万円という予算をどう確保するかです。「Canon RF70-200mm F4 L IS USM」に比べると、従来モデルの「Canon EF70-200mm F4L IS II USM」が安く感じるのも事実。とはいえ、EOS Rシリーズとの組み合わせで実現される快適な撮影環境を考えると買うなら当然Canon RF70-200mm F4 L IS USM」となります。悩ましいが、本当に快適なよいレンズです。



 

 

Canon RF70-200mm F4 L IS USMの基本スペック

対応マウント:キヤノン RFマウント

レンズ構成:11群16枚

絞り羽根枚数:9枚

フィルター径:77mm

大きさ:Φ約83.5×119.0mm

質量:約695g

実勢価格:214,500円(2021年5月 キヤノンオンラインショップ参考価格)


(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

 

 

【Text&Photograph:齋藤千歳】 

https://pasha.style/article/999

 

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