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  • [連載:マニアックレンズ道場15] LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shift
    フォルムをコントロールする世界最広角のシフトレンズ

 

画角110度の超広角シフトレンズの基本スペック

 

最大11mmのシフトが可能な15mm超広角

 

LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftは、35mm判フルサイズ対応の超広角15mmのシフトレンズです。画角は110度で、2020年12月現在Venus Optics調べの世界最広角のシフトレンズ。対応するマウントは、キヤノン RF/EF、ニコン F/Zマウントに対応するものがそれぞれ用意されています。カメラと各種情報をやりとりする電子接点などを搭載しないフルマニュアルレンズで、この点をメリットとして活用すると、今回のテストのようにキヤノン EF用をマウントアダプターでSony α7R IIIに装着して使うことも可能です。

また、一般的な35mm判フルサイズ用レンズではΦ43.2mmのイメージサークルをカバーするように設計されますが、本レンズではΦ65mmをカバー。±11mmのシフト量を確保しています(FUJIFILM GFX/Hasselblad X1Dなどでは±8mm)。

レンズ構成は、11群17枚で非球面レンズを2枚、特殊低分散レンズを3枚採用。レンズ名にZero-D(ゼロ-ディストーション)とあるように、ディストーション(歪曲収差)を小さく抑えているといいます。絞り羽根枚数は5枚。

レンズサイズは、最大径が約79mm、長さが約103mm、質量が597g。実勢価格は160,000円前後です。この世界最広角のシフトレンズLAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftの実力を、筆者たちが制作したAmazon Kindle電子書籍「LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shift レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0932G7GCG/)に掲載した解像力やぼけディスクなどの実写チャートの結果を元に解説していきます。

 


レンズフードは付属しません。また、フロントレンズキャップは、前玉を覆うようなかぶせ式に近い形で、ロックなしのバヨネット式です。

 

 

シフトレンズとは

 

被写体のフォルムや遠近感をコントロールするレンズ

 

シフトレンズは、レンズを上下左右などに移動(シフト)させ、レンズのピント面上を撮像素子で切り取る位置を変更して撮影できるレンズのこと。この結果発生した歪みによって「被写体のフォルムや遠近感のコントロール」、「カメラを固定したまま構図を変える」、「鏡などへのカメラの写り込み避ける」、「手前の障害物を避ける」、「複数の画面を合成して広い範囲を撮る」といったことができる特殊レンズです。

もっとも多用されるのは、建築物の撮影などでシフトによって見上げや見下ろしによるパースペクティブを補正し、建築物の縦のライン(垂直線)に発生するパースペクティブ歪みを補正。まるで正対して撮影したかのような、歪みのない垂直線で描写する手法です。

建築用のレンズと思っている方も多いようですが、建築物だけでなく、室内、室外に関係なく発生する歪みなどを補正できるので、風景写真やポートレートなどに使ってもおもしろく、シフトレンズならではの表現が得られるのが魅力です。



鏡筒の回転と組みあわせて、上下左右などに±11mmシフト可能になっています。これで被写体のフォルムのコントロールなどができるのです。



一般的な非シフトレンズはイメージサークルが撮像素子のサイズに合わせて設計されています。これに対してイメージサークルの広いシフトレンズは、その広いイメージサークルのなかを撮像素子を移動させて撮影できます。

 

 

解像力チャート

 

周辺部まで解像させるなら、しっかり絞る

 

A1サイズの小山壯二氏のオリジナルチャートを使って解像力をチェックしています。LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftにマウントアダプターを使い、Sony α7R IIIを装着。有効画素数は約4,240万画素なので、基準となるチャートは0.8です。掲載した解像力チャートの結果は、シフトなしの状態で撮影しています。

イメージサークルがΦ65と広いので、絞り開放から周辺部まで、バキバキにシャープな結果を妄想しました。しかし、結果は中央部からみていくと、絞り開放のF4.5ではややあまく、F5.6まで絞ると非常にシャープに、絞り過ぎによる解像力低下(小絞りぼけや回折)が発生しないF11あたりまで、このシャープさが維持されます。

また、周辺分ついては、絞り開放からのバキバキという妄想は実現されませんでしたが、絞るほどに解像力はアップ、F8.0あたりが解像力のピークになります。大きなイメージサークルによって膨らんだ妄想ほどは、解像しないといった印象です。

電子接点などのないフルマニュアルレンズなので、カメラ本体による歪曲収差のデジタル補正などの効果は得られません。そのため、光学性能だけでの結果になりますが、歪曲収差は軽微。さすがZero-Dといった結果です。シフトで撮影範囲を広げ、合成を行う際にも歪みの少なさは優位に働くでしょう。また、開放の周辺部では、倍率と推察される色収差が観察されます。

つい、絞り過ぎてしまう特性のある超広角のシフトレンズですが、F16以降は絞り過ぎによる解像力低下が露骨に発生するので注意してください。可能な限りF11までで使用するのがおすすめです。

シフトした場合は、よりレンズの端側で結像する部分の画質が低下することを頭に入れておくのがよいでしょう。

 

 

解像力チャートについて

 

解像力のチェックには小山壯二氏のオリジナルチャートを使用し、各絞り値で撮影しています。


 


建築物などを撮影する際には、どちらにしても絞るでしょうが、周辺部まで解像させたいときは、しっかり絞るのがおすすめです。

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャート

 

非常に寄れる超広角のシフトレンズ

 

LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftはイメージよりもはるかに寄れるレンズです。最短撮影距離は20cm、最大撮影倍率は非公開。ただし、チャートの実写結果などから推察するに、最大撮影倍率は0.2倍程度と思われます。今回はキヤノン EF用レンズにマウントアダプターを使ってSony α7R IIIに装着しているせいもありますが、最短撮影距離での撮影時にはレンズ先端から被写体前は5cm程度しかありません。

最短撮影距離の短さはしっかりと頭に入れておくと、超広角のシフトレンズという特性と組みあわせておもしろい写真が撮影できると思います。

 

 

最短撮影距離と最大撮影倍率チャートについて

 

小山壯二氏のオリジナルチャートを使っています。切手やペン、コーヒーカップなど大きさのわかりやすいものを配置した静物写真を実物大になるようにプリント。これを最短撮影距離で複写し、結果を観察しています。

 


世界最広角の15mmのシフトレンズとは思えないほど、近接撮影に強いレンズに仕上がっています。近接に強いラオワらしいともいえるでしょう。

 

 

サジタルコマフレアチェック


絞り開放で軽微に発生する傾向

 

超広角の15mmですが、開放がF4.5と暗いシフトレンズなので、星景撮影に向いているとは思いません。しかし、非点収差やコマ収差などの発生の様子を確認するために星景写真を撮影しました。本記事では拡大部「B左上拡大」と「C右上拡大」を掲載しています。シフトはせず、開放のF4.5で撮影していますが、周辺部の拡大では星の形が多少変形し、非点収差やコマ収差などが複合して発生するサジタルコマフレアが発生しています。ただし、程度は軽微といえるでしょう。


 

 


マニュアル露出(F4.5、15秒)/ISO 4000 にて撮影。サジタルコマフレアが発生していますが、程度は軽微といえます。

 

 

サジタルコマフレアチェックについて

 

星空もしくは星景写真を実際に撮影して、主にコマ収差や非点収差の発生具合を観察しています。ただし、その他の収差と複合して発生することも多く実際には複合した結果のサジタルコマフレアを観察することになります。

 

 

周辺光量落ちチャート

 

開放のシフト時には注意が必要

 

イメージサークルが通常よりも大きいメリットなのか? 比較的周辺光量落ちの発生しやすいラオワの超広角のなかでは周辺光量落ちの影響は軽微です。絞り開放では、周辺光量落ちの影響がはっきりと観察されますが、F8.0あたりまで絞ると気にならないレベルになります。必要なシーンでは絞るか、後処理という選択になるでしょう。

ただし、大きくシフトして撮影する際には、レンズの周辺部を使うことになるので周辺光量落ちの影響は大きくなります。特に絞り開放でシフトする場合には周辺光量落ちの影響があることを考慮しておきましょう。

 

 

周辺光量落ちチャートについて

 

周辺光量落ちチャートは半透明のアクリル板を均一にライティングし、各絞り値で撮影しています。


  

シフトなしでは、それほどの気にならないLAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftの周辺光量落ち。シフトすると影響が大きくなるので注意しましょう。

 

 

ぼけディスクチャート

 

ぼけに期待するレンズではない

 

開放F値4.5、世界最広角の15mmシフトレンズに美しいぼけを期待する人がどれだけいるかは謎です。とはいえ、最短撮影距離が20cmと短いので、ぼけの発生するシーンもあるでしょう。そんなときは、基本的に開放のF4.5をおすすめします。理由はぼけの形です。5枚羽根の絞りは10本の光条を発生させるときにはプラスに働きます。しかし、ぼけの形にはわずかに絞ったF5.6から、しっかりと影響し、玉ぼけが円ではなく、五角形になるのです。そのため、本レンズでぼかすなら開放がおすすめ。

また、ぼけの質については、非球面レンズを採用した超広角レンズらしく、ぼけのなかに同心円状のシワが発生する輪線ぼけ、ザワつき、フチの色付きなどが発生し、あまり美しいとはいえません。

 

 

ぼけディスクチャートについて

 

画面内に点光源を配置し、玉ぼけを撮影したものです。この玉ぼけ=ぼけディスクを観察し、形やなめらかさ、ザワつきなどを確認しています。

 


10mmの超広角とは思えない美しいぼけが得られます。だからこそ、絞り羽根の影響によるカクツキが残念です。

 

 

実写と使用感

 

思う以上に楽しいシフトの効果

 


LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shift/Sony α7R III/15mm/絞り優先AE(F8.0、1/160秒)/ISO 100/露出補正:-0.7EV/WB:晴天

レンズを塔と正対するように水平・垂直を調整。その後、レンズをシフトして塔全体を画面に収めました。

 


LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shift/Sony α7R III/15mm/絞り優先AE(F8.0、1/125秒)/ISO 100/露出補正:-0.7EV/WB:晴天

レンズを塔と正対するように水平・垂直を調整。ただし、シフトしていない状態です。そのため、塔の頂上部などは画面に入っていません。

 


LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shift/Sony α7R III/15mm/絞り優先AE(F8.0、1/125秒)/ISO 100/露出補正:-0.7EV/WB:晴天

同じ位置からレンズをシフトさせずに、普通の15mm広角レンズと同じように見上げるような角度で撮影した1枚です。

 

LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftで撮影した3枚の写真を掲載しました。いちばん最初に掲載したのが、カメラを三脚に水平・垂直を保ち、塔と正対するように設置し、シフトして塔の頂上まで入れたものです。塔のフォルム(遠近感)がコントロールされ、高さが圧縮されていません。シフトの効果はわかりやすいと思います。

2枚目の写真は、1枚目の写真と同条件でシフトしていない状態です。15mmの広角でカメラとレンズの水平・垂直を保って同じ位置から撮影すると塔の頂上および上部は画面のなかに収まりません。

3枚目はLAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftでシフトせずに同じ位置から塔を見上げるような角度で撮影したものです。普通の15mmの広角レンズで撮影すると塔はこのような感じで写ります。

2枚目は参考用としても1枚目と3枚目の写真では、まったく印象の違う写真といえるでしょう。同じ15mmの広角で同じ位置から同じ塔を撮影して、これだけ印象が異なるのはシフトレンズの効果といえるでしょう。

当たり前ですが、被写体が建築物でなくても同じようにフォルムのコントロールができるので、ほかのものを撮影してもおもしろい効果が得られます。

 

 

総評

 

独特の表現が手に入るレンズ

 

多くの建築写真などは、シフトによる歪み、フォルムのコントロール効果を利用して撮影されています。ある意味、シフトだけで非常にプロっぽい建築撮影が可能になるともいえるでしょう。そのうえ世界最広角のシフトレンズであるLAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftは、それだけでもある意味買いといえるわけです。同じ建物を撮影しても、シフトレンズを活用することで、誰がみてもプロっぽい写真に仕上げることができるメリットは大きいでしょう。

とはいえ、そんなに建築物を撮影しないという方も多いと思います。しかし、LAOWA 15mm F4.5 Zero-D Shiftは15mmの広角レンズとして、風景写真やスナップ、ポートレートの撮影にも十分活用してくれるのです。シフトレンズは建物だけでなく風景のフォルムを少し変形させることもできますし、ポートレートではモデルの足を長く見せる効果を得ることなどもできます。

当たり前ですが、高性能な超広角の15mmとしても、普通に使えますし、作例で掲載したほど、いつも大きくシフトして被写体のフォルムを変える必要もありません。自然にみえる程度、適度にフォルムを変形して使うのが王道でしょう。そのためには、外部モニターをつけるなどして、大きな画面で確認しながら撮影することをおすすめします。

ほかの人とは違う表現技法をプラスしたい、プロっぽく建築物を撮影したいという方には、ぜひ挑戦してみてもらいたいレンズといえます。シフトレンズ独特の表現は、一度手に入ると手放せない技法ですし、写真表現としては、ぜひ一度は経験しておきたいテクニックです。

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

 

 

【Text&Photograph:齋藤千歳】 

https://pasha.style/article/999

 

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