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  • [連載:マニアックレンズ道場]SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art 実写チャート性能評価
    アンダー10万円はかなりお買い得! 超高性能な単焦点


 

当然ともいえるが高い解像力と美しいぼけ、そして手軽な価格

 

チャートに出る軸上色収差は意外に多い

 

現在シグマのレンズには3種類のラインがあり、Artラインは画質を最優先したラインです。そして、Artライン最初のレンズが2012年に登場したSIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Artでした。今回紹介する「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は、そんなArtラインの原点ともいえる35mmF1.4をミラーレス一眼専用設計として、まったく新しく構築されたモデルです。とはいえ、いつもとおり筆者は、電子書籍「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0981Q6P9Q/)などを制作するために、すでに「解像力」「ぼけディスク」「軸上色収差」「最大撮影倍率」「周辺光量落ち」「歪曲収差」「サジタルコマフレア」といった各種チャートやテスト、さらに実写作例も撮影しました。そのため「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」に対する結論から述べると下記のとおりです。

「究極の画質を追求した35mm単焦点らしい高い解像力と美しいぼけ、そして予想以上にお買い得な9万円台」

「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」のおすすめポイントは

「Artラインらしい繊細な高画質・高解像」

「非球面レンズの影響を感じない美しいぼけ」

「最高レベルのAF35mmF1.4にしては安価な9万円台」

の3つ。

気になるポイントは

「なぜかチャート上ははっきりと出る軸上色収差」

といったところです。

ソニー Eやライカ Lマウントユーザーで「コストパフォーマンスが高く最高レベルの明るい35mm単焦点を探している方にはおすすめ」。一方「F1.4まで明るい必要もなく、絞り開放から高性能な必要もない方にはおすすめできない」レンズといえます。 この結論に至った、それぞれのポイントを各種チャートや実写などから解説していきます。

 

 

高画質・高解像

 

さすがArtラインの繊細な細部描写

 

SIGMA 35mm F1.4 DG DN | ArtSony α7R III35mm/絞り優先AEF8.01/30秒)/ISO 100WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド

  

「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」のシグマArtラインらしい繊細で高画質な高い解像力をみてもらうために、まずは函館山山頂から撮影した朝日の写真を掲載しました。実は筆者は、この函館山からの日の出景色が好きで、たびたび撮影しています。眼下に広がる市街地、朝日なので当然逆光、解像力チェックとしては、なかなか難易度の高い条件といえるでしょう。しかも、今回の作例を撮影した日は、雲海というか、朝霧というか、そういったものが発生し、描写はより難しい条件です。

画面左手の港、画面中央で手前から1/3あたりの部分を拡大します。Photoshopで200%表示した画面のキャプチャーです。

 


 

35mmの広角で山頂から見下ろした市街地を撮影しているので、どの建物もかなり小さく写っています。しかし、200%拡大した建物の上にある看板の文字が読めるレベルで解像しているのは異常です。いくつかのレンズで、同じような位置から撮影していますし、たまたまいっしょに持っていった「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」でも同じように撮影しましたが、28mmと35mmという画角の差もありますが、ここまではっきりと200%拡大の看板の文字が描写されることはありませんでした。

この高い解像力の様子を解像力チャートでも確認していきしょう。

 


 

有効画素数4,240万画素のSony α7R IIIに「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」を装着し、小山壯二氏のオリジナル解像力チャートを撮影しました。有効画素数から基準となるチャートは0.8です。

中央部に関しては、絞り開放のF1.4から、完全に予想以上、かなりシャープな描写になっています。しかし、驚くべきは、この開放から絞ると中央部の解像力が、さらにアップすること。F2.8やF8.0ではさらにシャープに描写します。中央部の解像力だけを考慮するなら「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は好きな絞りで撮影してよいレンズです。

そして、気になる周辺部ですが、さすがに開放のF1.4ではややあまく、絞るほどにシャープネスがアップしていく印象。開放でも、実用には十分な解像力がありますが、F2.8ではワンランクアップ。解像力のピークはF8.0前後です。F8.0あたりまで絞ると、非常にシャープな中央部に差し迫るレベルで周辺部までも解像します。素晴らしい結果です。

また、カメラ本体の「レンズ補正」効果により、歪曲収差や倍率色収差などはしっかりと補正されています。また、さすがにArtラインだけあり、デジタルでの補正量は軽微な傾向です。 実写、チャートともに優秀な結果なのですが、チャートの結果以上に実写での細部描写に繊細さを感じるのは、さすがArtラインといったところでしょうか。撮っていて、気持ちのよくなるレンズです。

 

 

ハイレベルなぼけ


なめらかで美しいぼけも魅力の1本

 

SIGMA 35mm F1.4 DG DN | ArtSony α7R III35mm/シャッター速度優先AEF1.41/200秒)/ISO 100/露出補正:+1.0EVWB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 


掲載した作例は、絞り開放のF1.4で撮影しています。ピントは画面手前側の向かって右の瞳です。みていただきたいポイントは3つ。まずは、10カ月の子どもの顔なのでかなり小さいのですが、ピントの合った右側の目に比べて左側の目がぼけているのがわかること。35mmとやや広角寄りですが、被写界深度は恐ろしく狭いです。ふたつ目は、一目瞭然ですが、圧倒的な背景のぼけ。左側の目はもちろん、耳のあたりもすでに被写界深度から外れ、背景はどんどんぼけていくのですが、その描写の素直でなめらかことと大きさに「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」の実力が感じられます。最後の3つ目は、前ぼけとなっているスマホを持っている、向かって右側の手のぼけ味です。後ぼけ、背景のぼけも素直で美しいのですが、前ぼけも素直で美しいのがよくわかります。

実写の結果だけでも、「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」のぼけの美しさは十分にわかるのですが、チャートでも確認していきましょう。

 

 

「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は、ぼけの美しさを高いレベル期待されるレンズです。しかし、そのレンズ構成には非球面レンズが2枚採用されています。非球面レンズを採用すると、玉ぼけのなかに同心円状の年輪のようなシワが発生することがあり、輪線ぼけといわれ、ぼけ描写のマイナス要素いわれています。また、掲載したぼけディスクチャートは、基本的に玉ぼけの形が真円に近く、フチつきや色つきがなく、内部がフラットでザワつきのないものほどなめらかで美しいぼけが得られると評価できます。

もっとも気になる輪線ぼけは、玉ぼけの中心部にわずかにその兆候がみられる程度で気にするほどではありません。もっとも気になったのは、フチの色つきで玉ぼけの出るシーンなどでは気になることがあるでしょう。内部はかなりフラットで、ザワつくというよりも、サワサワとして小さなツブツブが並んだような傾向です。

フチの色つき以外は気になる部分はなく、11枚羽根という豪華な円形絞りは、設計も優秀なようで形も、質も高レベルなぼけが楽しめます。

せっかくなので、最後に前後ぼけの傾向もチャートで確認しましょう。

 

 

掲載したチャートは軸上色収差のチェックチャート。このチャートの下部で、前後のぼけの傾向もチェックできるしくみです。前側のぼけも、後ろ側(背景)のぼけも少しサワサワした傾向はありますが、かなり素直で美しい傾向。素晴らしいぼけが楽しめるレンズといえます。

実は一方気になるのは、画面中付近で明らかに発生している軸上色収差です。ぼけのディスクチャートのフチにも明らかな色収差傾向がみられたので、この点は別途解説します。

どちらしても、「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は非常に美しいぼけが楽しめるレンズに仕上がっています。

 

 

意外に安価な9万円台


ぜいたくだが、思う以上に高いコストパフォーマンス

 

「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は現在ソニー Eやライカ Lマウントで選択可能な35mm単焦点レンズとして、最高峰の性能をもつレンズの1本であることは疑う余地はありません。しかし、実勢価格95,000円前後という価格は、単焦点レンズ1本と普通に考えると十分高いのですが、このクラスの35mm単焦点レンズのライバルたちに比べると、お買い得、もしくは安いといってもよい価格設定だと筆者は思っています。


 

筆者が最近テストした35mmの高級単焦点レンズとしては、ソニー Eマウント用のVoigtländer APO-LANTHAR 35mm F2 Asphericalがあります。しかし、「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」と比べると開放F値が1段ほど暗いF2.0、しかもマニュアルフォーカスレンズであり、実勢価格も115,000円前後と、コストパフォーマンスという点では及ばない印象です。さらにEマウント用のライバルレンズとして本命と目されるのは2021年1月に発売されたソニー純正のSony FE 35mm F1.4 GMでしょう。ただし、こちらは実勢価格が180,000円程度とほぼ倍の値段です。筆者はテストの機会に恵まれていませんが、Sony FE 35mm F1.4 GMは「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」の倍の性能ということは考えづらいので、コストパフォーマンスという点では、「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は非常に優れたレンズです。

また、ライカ Lマウント用の最高性能を目指したと思われる35mm単焦点は、ライカ SUMMILUX-TL 35mm f/1.4 ASPH.はAPS-C向けで30万円越える価格ですし、35mm判フルサイズに対応するライカ アポ・ズミクロンSL f2/35mm ASPH.は60万円を越えるレンズなので、コストパフォーマンスがどうこうというレンズではありません。

などと考えると、ソニー Eとライカ Lマウントに対応する35mmF1.4の最上級クラスの単焦点レンズとして「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は群を抜いてお買い得でコストパフォーマンスの高いレンズといえるわけです。

 

 

軸上色収差が多い


性能から想像できないほどの軸上色収差

 

すでにぼけの解説でも登場した軸上色収差のチェックチャートです。レンズに対して約45度角で配置したチャートを撮影し、ピントを合わせた中央部から前後に発生する軸上色収差の様子を確認しています。結論からいうなら、かなりはっきりと色つきが観察され、軸上色収差が発生している状態です。

「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」については、シグマが公式WEBで「最新の光学設計技術のもとに構成された11群15枚のレンズには、SLD2枚、ELD1枚、FLD1枚、非球面レンズ2枚と最新の硝材も採用し、カメラ側の機能で補正できない軸上色収差を中心に徹底的に補正しています。」と明言しています。しかし、実際にチャートを撮影する明確に軸上色収差が観察されるのです。

ただし、これだけ明確に軸上色収差が発生していれば、解像力チャートなどの結果にも影響があるはずであり、今回のテスト結果ほど高い解像度を発揮するのは難しいでしょう。

不思議に思い筆者たちも、いろいろと調べた結果、現在我々がチャートで観察しているピント位置の前後の発生するピントの合っていない部分に発生する軸上色収差のほかに、ピントが合っている面(位置)で発生する軸上色収差があることがわかりました。シグマが「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」で徹底的に補正したといっているのは、このピントが合っている面(位置)での軸上色収差の発生のようです。

そのため、斜め45度角で撮影した軸上色収差チャートでは明確に色収差による色つきが発生しますが、平面である解像力チャートを撮影した際には色収差はなく、非常に高い解像力を発揮するようです。

ピント位置の前後に色収差が発生するのは事実ですが、ピント位置の軸上色収差がしっかりと補正されていると、ピント位置ではしっかりとレンズ性能が発揮されるということがよくわかるレンズといえるでしょう。

軸上色収差というキーワードに対して、今後はチャートから確認できる1種類だけでなく、もう1種類にも配慮する必要があるようです。

 

 

まとめ


最高クラスの35mm単焦点を手軽に味わえる1本

 

夢も希望もない、いい方ですが筆者はレンズの性能はある程度、価格なりといえる部分があると考えています。

同じ条件で10倍以上も高価な高級レンズよりも高性能なんて、夢のようなレンズをテストしたことはありません。

しかし、10倍の価格の高級レンズが10倍高性能かというと、そんなこともないと思っています。

化粧品やお酒などの嗜好品に似ている印象なのです。おそらく2千円の化粧品比べて2万円の化粧品を使うと10倍の効果が得られるということないでしょう。お酒も同じだと思います。

「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」は、まだまだ高価なレンズはいくらでもありますが、現状において35mmF1.4クラスの最上級クラスの描写を味わえるレンズであることも疑う余地はありません。しかも、実勢価格は10万円を切る95,000円前後です。

35mmという画角が好きという人はもちろん、35mm単焦点レンズのなかでも最上級クラスの描写を味わってみたい方に、ぜひおすすめしたいレンズになっています。レンズの価格全体が上がっている、いま、10万円以下で最上級を味わえるレンズは希有な存在といえるでしょう。一度、挑戦してみてはいかがでしょう。



●SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art の基本スペック


対応マウント:ソニー E、ライカ L

レンズ構成:11群15枚

絞り羽根枚数:11枚

フィルター径:67mm

大きさ:Φ約75.5×111.5mm(ソニー Eマウント)

質量:約640g(ソニー Eマウント)

実勢価格:95,000円前後


(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

https://pasha.style/article/999

 

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