• 記事検索

  • [連載:マニアックレンズ道場18]LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO
    計算され尽くした最新設計の「名玉」

 

開ければ芯がありながらソフト、絞れば驚くほどシャープを最新技術で再現

9枚羽根の絞りがカクツクのはご愛敬


今回は「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」を紹介します。筆者はだいたい年間50本前後くらいのレンズをテストするのですが、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」については、年に数本あるか、どうかの驚いたレンズです。電子書籍「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09C1TKK9Q/)を制作するために、「解像力」「ぼけディスク」「軸上色収差」「最大撮影倍率」「周辺光量落ち」「歪曲収差」といった各種チャートやテスト、さらに実写作例も撮影しましたので、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の結論から述べると下記のとおりです。

 

「恐ろしく緻密な収差コントロールで設計・デザインされた最新技術の名玉 開ければ芯はあるがソフト、絞れば驚くほどのシャープな1本」

 

「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」のおすすめポイントは

「球面収差を活用した絞り開放の芯があるけどソフトな描写」

「絞り開放からは想像できない絞った際の周辺部まで高い解像力」

「同心円状に小さなツブツブが並ぶ独特のぼけ描写」

の3つ。

 

残念ポイントは

「9枚羽根だがカクツク絞り羽根の設計」

といったところです。

 

「最新技術で設計された、ソフトだが芯のある開放、そして絞れば周辺部まで驚くほどのシャープな名玉の描写」を味わいたいすべての方におすすめ。一方「絞り開放からシャープな標準単焦点がほしい」という方にはおすすめできないレンズです。

最終的な結論に至った、それぞれのポイントを各種チャートや実写などから解説していきます。

  

 

ソフトな開放描写


球面収差による意図的なソフト効果を活用

 


LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APOSony α7R III50mm相当/絞り優先AEF0.951/4,000秒)/ISO 50/露出補正:+0.3EVWB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 

 

名玉と呼ばれるレンズの開放での描写を「紗が掛かったようにソフトだが、芯のある」と表現されることがよくあります。これを額面どおりに受け取るとただぼけているのではなく、解像はしているがソフトという状態なのでしょう。


そこでナノハナを絞り開放のF0.95で撮影した写真を掲載しました。大きくぼけていることは掲載サイズでもわかりますが、どのように描写しているのか、アップにしてみましょう。



 

Photoshopで50%表示したものを切り抜いてみました。ナノハナの茎の部分などは解像してるのに、花などの部分はにじむような、光るような描写でかなりソフトになっています。

よりわかりやすいように、今度は解像力チャートでチェックしましょう。



 


開放のF0.95から各絞りで撮影した解像力チャートの結果です。

「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」とクロップしたSony α7R IIIの組み合わせで撮影しているので、有効画素数は約1,800万画素。基準となるチャートは1.2です。

注目してほしいのは、チャート中央のF0.95とF1.4の描写の違い。開放では明らかに解像はしているのに紗の掛かったようにソフトな描写が、わずかに絞ったF1.4ではほとんど消えています。F2.0まで絞ると、さすがに周辺部はあまいものの、中央部分はシャープさが売りのレンズと変わらない高い解像力を発揮しているのがよくわかるでしょう。

名玉と呼ばれる多くのレンズでは、このように開放付近で球面収差を中心にした収差が発生、画像自体は解像しているものの、にじむような、光るようなソフト効果が起きているのでしょう。これを「ピントの芯はあるのに、紗の掛かったようにソフトな描写」などと表現してきたと推察されます。

この「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の開放F0.95でポートレートを撮影するとどうなるのでしょうか。

 


LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APOSony α7R III50mm相当/絞り優先AEF0.951/160秒)/ISO 50/露出補正:+0.3EVWB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 

35mm判フルサイズに比べるとぼけづらいといわれるAPS-C向けのレンズですが、さすがに50mm相当の開放F0.95は、ピント合わせが困難なほど強力にぼけます。しかし、多少ピント合わせが困難であっても、圧倒的なぼけ量と球面収差を中心にした収差が生み出すソフト効果が生み出す、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の開放ならではのポートレート描写は写真のとおり非常に魅力的といえるでしょう。


収差をレンズ設計段階からデザインして、開放では「ピントの芯はありながら、紗の掛かったようなソフトな描写」を意図的に再現したのが「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」といえる結果です。素晴らしい。

 

 

周辺部まで高解像

 

絞ると画面端まで恐ろしくシャープな描写

 

実は筆者が「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」を称賛するのは、絞り開放の「ピントの芯はありながら、紗の掛かったようなソフトな描写」だけではないからです。

実際のところ、絞り開放時に球面収差を中心とした各種収差が発生して、たまたま、もしくは、意図的に「ピントの芯はありながら、紗の掛かったようなソフトな描写」になるレンズは意外とあります。特に古いレンズには多いようです。

しかし、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は開放時の「ピントの芯はありながら、紗の掛かったようなソフトな描写」を設計段階から意図的にコントロールし、しかも「絞れば、周辺部までバリバリにシャープ」になるよう収差をデザインしています。この点に従来のレンズとの大きな違いを感じます。

まずは解像力チャートを確認してみましょう。

 


 

F4.0以降の絞って撮影した解像力チャートの結果です。開放付近で撮影した解像力チャートとは違うレンズなのではないかと思うほど、周辺部までしっかり、きっちり解像しています。

特にF5.6やF8.0は中央部と周辺部の描写にほぼ差がないほど。シャープさがセールスポイントのレンズでも、ここまで解像すれば立派です。

さて、なぜこんなことができるのでしょう。単純に開放付近で収差の多いレンズでは絞っても、こんなに解像力が上がるとは思えません。

レンズの解像などを阻害する収差には、さまざまな種類があり、絞りを絞っても解決しないものと絞れば解決するものがあります。

例えば「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の開放時のソフト効果に大きく貢献していると推察される球面収差は絞れば解決します。また、コマ収差や軸上色収差も絞れば解決するタイプの収差、非点収差や像面湾曲にある程度の効果が見込めます。ただし、倍率色収差や歪曲収差には効果が期待できないわけです。

ポイントは、開放では各種収差が発生しても、絞ればシャープなレンズは、絞っても解決しない収差を極力排除しておけばよいともいえます。

試しにふたつの色収差をチャートでチェックしましょう。

 


 

軸上色収差をチェックするチャートの撮影結果です。「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の開放F0.95では、全体図でみても明らかに軸上色収差が発生しています。詳細にいくつかの絞りでみていきましょう。

 






 

開放のF0.95では盛大に発生していた軸上色収差はF2.8でぼぼ消え、周辺部まで解像力がアップするF4.0では、その影響をほとんど感じません。これほど、開放で盛大に発生し、簡単に消えるレンズも珍しいです。また、開放F値が極端に明るいことも関係しているのしょうが、ラオワのほかのAPO(アポクロマート)レンズは、ほぼ軸上色収差が発生しない印象なので、少し不思議な感じもします。

一方、同じ色収差の倍率色収差はどうでしょうか。倍率色収差は絞っても減少しないでの、絞り開放での発生具合を確認したチャートのアップを掲載します。

 


 

普段あまり公開していないのですが、倍率色収差のチェックチャートは解像力チャートのなかに組み込んであり、解像力をチェックするための画像を撮影する際に同時に撮影しています。上の写真の二重の○と×の組み合わせのところに倍率色収差が発生すると色が付きます。しかし、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は、色つきがまったくありません。

また、もうひとつの絞っても解決しない収差である歪曲収差は軽くタル型で発生します。さらに周辺部分の解像力(コントラスト)に影響を与える周辺光量落ちも、絞り開放ではかなりしっかり発生しますが、周辺部まで解像力がアップするF4.0以降ではほぼ影響が観察できないレベルに改善される設計です。

要は、絞っても改善しない解像力の影響を与える収差などは、最初から排除。絞れば消える収差などは、解像力のピークであるF5.6やF8.0では、ほぼ消えるように収差がコントロールされた設計なのでしょう。

その結果、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」でF8.0まで絞った実写が下記です。

  


LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APOSony α7R III50mm相当/絞り優先AEF8.01/400秒)/ISO 100/露出補正:+1.0EVWB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 

「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の解像力のピークであるF8.0で一面に広がるナノハナ畑を撮影しました。画面周辺部に至るまで、画像の流などもなく、非常にシャープで高解像です。また、周辺光量落ちなどもありません。

絞ればシャープになるのは当たり前だという意見もあるかもしれません。しかし、開放F値が極めて明るく、球面収差などが大胆に発生するレンズの大部分は、絞れば開放のソフトな描写に比べると解像力がアップする程度のものが多いのです。実際にはちょっとシャープなほかのレンズに比べるとかなりあまい。しかし、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は、絞るとちょっとシャープなその辺レンズより、周辺部までしっかりシャープで高解像に描写します。


「開放はピントの芯はありながら、紗の掛かったようなソフトな描写。絞れば、周辺部までバリバリにシャープ」という名玉を実現するために最新技術で緻密に収差をデザインした「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」ならではといえる結果でしょう。

 

 

独特のぼけ描写


人気の単焦点レンズにも似た独特のぼけ味


「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は、非球面レンズを採用した開放F値0.95の標準単焦点レンズです。そのため、ぼけについては、非球面レンズがどのような影響を及ぼすのかに、筆者は注目しました。

まずは、ぼけディスクチャートの結果です。

 


 

ぼけディスクチャートは、形が真円に近く、ぼけディスク(玉ぼけ)にフチつきや色つきがなく、なめらかでザワつきのないものがぼけの質が高いと判断できます。

「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」の結果は、非球面レンズの影響で発生するといわれるぼけディスク内の同心円状にシワは露骨に発生しているとはいえず、輪線ぼけやタマネギぼけと呼ばれる傾向は軽微。また、大きなザワつきはありませんが、小さなツブツブが同心円状に並んだ、サワサワとした傾向です。絞り開放では色収差によるフチの色つきがはっきりと観察されますが、絞ると露骨に軽減するので、軸上色収差によるものだと推察されます。

ぼけの質を観察する、もうひとつのチャートである軸上色収差チャートも再度確認してみましょう。

 


 

小山壯二氏オリジナルの軸上色収差チャートは、中央部分で軸上色収差を、チャートの上下でぼけの傾向をチェックできるようになっています。基本的に前後ともぼけは素直でなめらかな傾向ですが、前ぼけのほうがやや二線ぼけ傾向が強いと思われます。また、ぼけは美しいのですが、ややサワサワした独特の傾向です。

このぼけのディスクチャートの小さなツブツブが同心円状に並ぶ独特の傾向は、実は筆者が最近テストしたVoigtländer APO-LANTHAR 35mm F2 Asphericalが同傾向。Voigtländer APO-LANTHAR 35mm F2 Asphericalのほうがツブツブが大きい印象です。


実写では、どのような感じでぼけていくのか、ポートレートをアップにして確認してみましょう。

 


LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APOSony α7R III50mm相当/シャッター速度優先AEF0.951/160秒)/ISO 100/露出補正:+1.3EVWB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 


 


Photoshopの100%表示を切り抜いたものです。絞り開放では各種収差が発生しているので、かなりソフトな描写になりますが、ピントの合った手前の瞳のまつげから、奥の瞳までのぼけ方がサワサワとした小さなツブツブのような印象です。この独特のぼけ方は好き好きがあるかもしれません。

筆者は同傾向のVoigtländer APO-LANTHAR 35mm F2 Asphericalの際にもありと判断しているので、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」のぼけもありだと思っています。なお、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」のほうが同心円状に並ぶツブのサイズが小さく、独特の傾向は弱い印象。かなり美しいぼけといえるでしょう。

 

 

カクツクぼけ


9枚と枚数は多いがカクツキの目立つ絞り

 

「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は9枚羽根の絞りを採用しています。円形絞りであれば、9枚程度は現在比較的メジャーな枚数でしょう。多くのメーカーが7~9枚といった絞りを採用しています。さて、ぼけディスクチャートの形から、その絞り羽根がどの程度真円に近いぼけを生み出せるかを観察しているのですが、すでに開放のF0.95とF1.4は掲載しているので、F1.1とF2.0の玉ぼけの形を掲載します。

 


 


開放のF0.95が真円になるのは当然ですが、F1.1以降は絞り羽根の形状が直線的なのか? わずかに絞ったところから、ぼけの形にカクツキが目立ちます。9枚羽根ならもう少し真円っぽい玉ぼけが作れそうなのですが、この点は残念です。単純にぼけの形が気になるときは絞り開放という考え方もありますが、開放とF1.1、F1.4以降、F4.0以降でかなり大きく描写傾向の違う「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」では、F1.4やF2.0を選択したいシーンも出てくるので、ぼけのカクツキがやや残念な結果といえるでしょう。



まとめ


緻密に収差がコントロールされた「最新の名玉」


「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は、評価者によって、評価がまったく異なるレンズでしょう。ただし、筆者は、このレンズが好きです。

現在のミラーレス一眼用レンズの最新設計のトレンドは、おそらくカメラとレンズを高度に連携させて、カメラ本体のデジタル処理で軽減できる収差はカメラで、それ以外の収差をレンズ光学系で補正することにより、軽量コンパクトで絞り開放から高性能なレンズを実現することでしょう。これを現在の王道と考えるなら、「LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APO」は異端です。電子接点を搭載しないのでカメラでのデジタル補正の恩恵が得られないレンズですが、色収差への対処だけをみても、普通は後処理で対応できる倍率色収差は多少出ても、デジタル処理に向かない軸上色収差を軽減するのが王道といえます。ある意味、現在最新のスタイルを意図的に無視して、最近の収差コントロール技術を駆使し「名玉」といわれるレンズを純粋な光学性能だけで再現したレンズに感じられるのです。

開放のF0.95、F1.1あたりで球面収差を中心とした各種収差により、得られる芯はあるのに、恐ろしくソフトな描写、F1.4、F2.0あたりの大きくぼけるのに中央部の打って変わったようなカリカリのシャープネス、F5.6やF8.0の全体解像力の高さ。まるで1本に発生する収差を絞りごとにデザインして、作られたレンズと筆者は感じたわけです。

LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APOからは、単純に収差を抑えるレンズ設計から、まるでレンズの収差をデザインするような設計思想を感じ、年に数回しかない驚きと喜びを感じたのです。レンズ好きなら、試してみるべき1本です。また、LAOWAの新シリーズArgusには、今後も注目でしょう。

 


LAOWA Argus 33mm F0.95 CF APOの基本スペック

対応マウント:キヤノン RF、ソニー E、ニコン Z、フジフイルム X

レンズ構成:914

絞り羽根枚数:9

フィルター径:62mm

大きさ:Φ約71.5×83mm

質量:約590g

実勢価格:66,000円前後

 

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)


Text&Photograph:齋藤千歳】 

マニアックレンズ道場シリーズ