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[連載:マニアックレンズ道場20]中一光学 APO 135mm F2.5 ED
実勢価格4万円以下で手軽に挑戦できる135mmは思う以上に高性能
中一光学 APO 135mm F2.5 ED 実写チャート性能評価
Amazon Kindleで販売中の電子書籍「中一光学 ZHONG YI OPTICS APO 135mm F2.5 ED」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09M9GQ1KS/) を制作するために、筆者は同レンズで「解像力」「ぼけディスク」「軸上色収差」「最大撮影倍率」「周辺光量落ち」「歪曲収差」といった各種チャートや実写作例を撮影・テストを行いました。このテスト結果などを元に「中一光学 APO 135mm F2.5 ED」の魅力などをお伝えします。
製品概要
低価格で明るい大口径の135mm単焦点レンズ
焦点工房から2021年10月18日に発売された「中一光学(ZHONG YI OPTICS) APO 135mm F2.5 ED」。レンズを製造する中一光学は中国瀋陽の光学メーカーで、三竹光学のヨーロッパ向けブランド「MITAKON」の OEM メーカーとして30年の歴史があります。対応するマウントはキヤノン EF/RF、ソニー E、ニコン F/Z用のものがそれぞれ用意されます。引き出し式のレンズフードを内蔵したレンズ本体は、金属パーツが多用され、マウントにより多少異なりますが、筆者の使用したニコン F用で質量は約890g、サイズは最大径が約79mm、長さが約134mm。電子接点などを持たないフルマニュアルレンズで、レンズ構成は7群9枚(うち特殊低分散レンズを2枚、超高屈折率レンズを2枚、超高透過レンズを1枚採用)、絞り羽根枚数は9枚になっています。35mm判フルサイズに対応し、最短撮影距離は1.0m、 最大撮影倍率は0.1倍。開放F値は2.5と明るい135mm単焦点レンズですが、実勢価格は39,000円前後とエントリーユーザーでも挑戦しやすい価格設定です。
注目ポイント
「絞りで変わる解像特性」「大きく美しいぼけ」「アンダー4万円の実勢価格」
各種テストを行った結果、筆者は「中一光学 APO 135mm F2.5 ED」の注目ポイントは「絞りで変わる解像特性」「大きく美しいぼけ」「アンダー4万円の実勢価格」の3つであると考えました。
そこで、これらのポイントを撮影したチャートデータなどとともに解説していきます 。
絞りで変わる解像特性
絞り開放付近であまくソフトに、F4.0以降はとてもシャープ
今回のテストは、Sony α7R III(有効画素数4,240万画素)に中一光学 APO 135mm F2.5 EDのニコン Fマウント用をマウントアダプターで装着して行いました。カメラと各種情報をやり取りするための電子接点などがフルマニュアルレンズなので、マウントアダプターで簡単にマウント変換できるのは、ある意味大きなメリットと言えるでしょう。
肝心の解像力ですが、中一光学 APO 135mm F2.5 EDは、開放のF2.5からF2.8あたりまでと、F4.0以降では描写の傾向が全く異なるのが特徴です。
開放のF2.5からF2.8あたりまでは、中央部は基準となる0.9のチャートを解像しているのですが、まるで紗のかかったようなソフトであまい描写。周辺部に至っては、さらにソフトであまい傾向です。女性や子供のポートレートに向いた解像していながら、ソフトな表現を意識していると考えられます。
ただし、F4.0まで絞ると、描写は一変。まるで霧が晴れたかのように、画面全体でシャープで高解像度になります。これは中央部だけではなく、周辺部までパッキリとシャープな描写に変化するのです。
これだけ絞り値によって、はっきりと描写傾向の変わるレンズも珍しいでしょう。
撮影した解像力チャートからは、いくつかの収差が読み取れますが、歪曲収差はほぼ発生しておらず、倍率色収差も軽微でした。
大きく美しいぼけ
明るい開放 F 値と9枚羽根絞りで楽しむ高品質なぼけ
極小のLEDライト点光源として、画面内に玉ぼけを発生させて撮影しています。この玉ぼけの描写から、ぼけの傾向などを評価しています。基本的に形が真円に近く、フチに色つきがなく、内部描写にザワつきのないフラットなものほど美しいぼけが得られる傾向です。
ぼけの質を解説する前に、135mm F2.5のぼけの大きさについて解説させてください。実は筆者も、実際に135mmを使うようになるまで、100mmF2.8のマクロレンズとそんなに変わらないのではないかと思っていました。しかし、 被写界深度を計算してみると撮影距離1mで100mmF2.8の被写界深度は約16.8mm、これに対して135mmF2.8は約9.2mm、135mmF2.5は8.2mmと被写界深度が半分しかないのです。当然、それだけ大きなぼけも得やすくなります。
中一光学 APO 135mm F2.5 EDの玉ぼけを撮影した結果は、素直にかなり美しいぼけが得られる傾向。前ぼけ、後ぼけ(背景ぼけ)ともに、ぼけのフチへの気になる色つきはなく、ぼけの内部にも気になるザワつきはありません。優秀な結果です。また、ぼけの形も9枚羽根の絞りの設計がよいのか、F2.8まではほぼ真円と言える状態、さらに絞ってもカクツキの目立たない傾向。大きさ、質、形ともに高品質なぼけが得られます。唯一気になったのは、非球面レンズを採用していないのに、ぼけの中に同心円状のシワが発生する輪線ぼけの傾向がわずかに現れたことです。
アンダー4万円の実勢価格
高級感のある作りだが、挑戦しやすい価格がうれしい
中一光学 APO 135mm F2.5 EDは、レンズ単体で約900gという質量からも想像がつくように、金属パーツを多用したかなり重厚なレンズです。その見た目からはコストパフォーマンスの高さは微塵も感じられず、どちらかと言うと高級感が漂っています。しかしながら実勢価格は39,000円前後。AFなどを搭載しないフルマニュアルレンズということもありますが、135mmの単焦点レンズとしてはかなりお安い。解像力やぼけの品質は、すでに解説済みですが、筆者がテストしてきた経験から光学性能の高いレンズが多い、135mm単焦点レンズのなかでも、十分以上の性能を持っています。それでいて、この価格ですからポートレートは好きだけど、135mmは持っていないという方にもぜひおすすめしたいレンズです。
実写画像とまとめ
中一光学 APO 135mm F2.5 ED/Sony α7R III/135mm/シャッター速度優先AE(F2.5、1/160秒)/ISO 8000/露出補正:+1.0EV/WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド アイレベルの高さに構えたカメラで、1歳の息子を見下ろすように撮影した1枚。135mmならではの大きなぼけと距離感の圧縮効果で135mmならではの描写に仕上がります。
中一光学 APO 135mm F2.5 ED/Sony α7R III/135mm/絞り優先AE(F8.0、1/320秒)/ISO 100/WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド 関西人ではない筆者のイメージ過ぎませんが、レンズの性能が高いこともあるのでしょうが、135mmで撮影すると、なんか写真がシュッとするのです。
85mmとも100mmとも違う135mmならでは描写をぜひ楽しんでほしい1本
おそらく中一光学 APO 135mm F2.5 EDの最大の弱点は、マニュアルフォーカス(MF)であることでしょう。決してピンとの見づらいレンズではありません。しかし、135mmF2.5が生み出す非常に浅い被写界深度、そして中一光学 APO 135mm F2.5 EDの魅力のひとつである開放付近での紗の掛かったようなソフト描写が相まって、子供のように動く被写体へのピント合わせは容易とはいえないでしょう。
逆にいうなら、かなりの数の135mm単焦点をテストしてきた筆者もMFでのピント合わせが最大の弱点と感じるほど、中一光学 APO 135mm F2.5 EDの光学性能は高いわけです。
また、85mmの単焦点や100mmのマクロなどとは、まったく異なる描写、大きなぼけや距離感の圧縮効果などは、まさに135mmならではといえます。そんな135mm単焦点の描写をアンダー4万円で実現してくれる中一光学 APO 135mm F2.5 EDは、135mm未体験のポートレート好きのみなさんにぜひおすすめしたいレンズです。選択する絞り値で異なる描写もうまく使いこなすと1本で2度おいしいレンズともいえるでしょう。
●中一光学(ZHONG YI OPTICS)APO 135mm F2.5 EDの基本スペック
対応マウント:キヤノン EF/RF、ソニー E、ニコン F/Z
レンズ構成:7群9枚
絞り羽根枚数:9枚
フィルター径:67mm
大きさ:Φ約79×162mm(ソニー Eマウント)
質量:約900g(ソニー Eマウント)
実勢価格:39,000円前後
(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)