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  • 噂のCFexpressカードを使ってみました
    Angelbirdは使えるのか徹底検証




2021年はSONY α1、キヤノンEOS R3、ニコンZ9など各メーカーのハイスペックなカメラが発売されました。PASHA STYLE編集部でもメーカー様からカメラをお借りして、EOS R3などのレビューを行ってきましたが、高速連射が売りのモンスターマシンをお借りしたけど編集部にCFexpress TypeBのメディアがない‼ これではカメラ本来の性能が出し切れないと困っている時に、今話題沸騰中のAngelbirdのメモリーカードをお借りできることになりました。そこでAngelbirdとはどんな製品なのかレビューしていきたいと思います。


テスト用にお借りした記録メディアはCFexpress TypeBの『AV PRO CFexpress SX』と『AV PRO CFexpress SE』の2モデル。Angelbirdはオーストリアで設計・生産を行っているプロフェッショナル映像機器用ハイエンド記録メディアのブランドで、写真界隈ではあまり知られていませんが、動画ではプロの現場で絶大な信頼を得ているブランド。ARRI、Atomos、Blackmagic Design、REDなどのメーカーとパートナーシップを確立しています。そのブランドが静止画向けに作ってきたのが、今回紹介する2アイテムなのです。
ザックリ2つのモデルの特徴を説明すると、動画にも静止画にも使える性能を徹底的に追及して作られたのが『AV PRO CFexpress SX』で、もうひとつの『AV PRO CFexpress SE』は性能を静止画に特化させることで、パフォーマンスと価格をちょうどよくバランスさせたモデル。両モデルともにカメラで撮影された動画や高解像度の写真を処理するために設計されたY2プロセッサと、過熱によるデータの損傷や記録フレーム欠損などを防いでくれる適応型温度管理機能を搭載しています。


まずはメディアの選び方

カメラやレンズにはこだわるけど「メディアは容量が多ければいいよ」と思っている方いませんか? いくらいいタイミングでシャッターを切れても肝心な時に記録してくれなかったら全て台無し。だから作品作りをしている方はカメラやレンズと同じぐらいメディア選びにも気を使って欲しいものです。特に高画素機や連射性能・動画機能が優れたカメラを使っている方はメディアの性能次第でカメラの性能を引き出せない可能性もでてくるので要注意です。
カメラにあったメディア選びのポイントは速度。CFexpress TypeBカードは理論値で最高速度2000MB/s。現在SDXCカードの最高速度が300MB/sと考えると、CFexpressの性能は基本的にSDカードとは比較できないほど高いことがわかります。思わず「CFexpressのメディアなら速度を考えないでもOK」と思ってしまうところですが、CFexpressを採用しているカメラはハイエンドモデルが多いため、その性能をフルに引き出そうと思ったら当然カードの書き込み速度はチェックしたいポイントです。


ちなみにCFexpressはSDカードのようにスピードクラスの表示がなく、ほとんどのメーカーが読み出し速度と書き込み速度、カード容量しか記載していません。メーカーによっては速度をひとつしか記載していない場合もあります。撮影に使う場合は「書き込み速度」が重要なので、ひとつしか速度が書いてない場合は表記が読み出し速度なのか? 書き出し速度なのか? 必ずチェックしましょう。
今回紹介するAngelbirdのメディアの特徴は「持続記録性能」。持続記録性能ってなんだ? と思った方も多いかと思いますが、スペック上のメディアの速度は基本的に最大速度となっています。あまり知られていないのですが、連続して記録していくと記録速度は落ちていくのです。メディアによっては書き込み速度が半分以下に落ちてしまうことも。動画の場合は常に記録する必要があるので、「最高速度」よりも「持続記録性能」が重要となるのです。最近は高画素モデルでも高速で連写できるカメラがあるので、静止画でも「持続記録性能」がカメラの性能を引き出すポイントになっています。


テスト

書き込み速度の「持続記録性能」が違うとカメラの挙動が変わるのか知りたかったので、高画素モデルで連写撮影を行ってみました。テスト機材はニコンZ9。なぜZ9かというと今発売されているカメラの中で一番書き込み速度が必要なカメラだから。テストはZ9で写真1枚のサイズが大きい画質JPEG(FINE★)+RAW、サイズL(8256×5504)でテストを行いました。メディア性能の検証となると動画モードでの使用を考えてしまいますが、Z9の連写性能は4571万画素で秒間約20コマ撮影ができるので、8K動画(静止画だと約3300万画素)よりも、静止画の最高画質の方がメディアに要求される性能は厳しいのです。ということで今回は静止画でテストしてみました。


テストで使用したメディアはAngelbirdの『AV PRO CFexpress SX』と『AV PRO CFexpress SE』。比較用に国産ブランドのCFexpress Type Bメモリーカードを用意しました。

  

 

【テストで使ったCFexpress Type Bの詳細】

Angelbird AV PRO CFexpress SX 160GB
読み込み1785MB/s(持続速度1785MB/s)
書き込み1600MB/s(持続速度1480MB/s)
市場販売価格2万8600円(税込)


Angelbird AV PRO CFexpress SE 512GB
読み込み1785MB/s(持続速度1785MB/s)
書き込み850MB/s(持続速度800MB/s)
市場販売価格2万8600円(税込)
※価格は2022年6月30日調べ


国産ブランドCFexpress TypeBカード 128GB
読み込み1700MB/s
書き込み1480MB/s

※持続速度はメーカーのHPに記載なし

 

 



カードに記載されている最大書き込み速度の速い順番に、性能がでると予測していたのですが


結果は

1位『AV PRO CFexpress SX』

2位『AV PRO CFexpress SE』

3位『国産ブランドメモリーカード』となりました。


RAW+FINEの中で写真のデータ量が1番大きい非圧縮RAWの場合、どのメディアも約2秒程度でバッファーを使い果たして、その後はメディアの書き込み速度に依存する形でシャッターが切れました。バッファーを使い果たした後の速度は体感的には『AV PRO CFexpress SX』が、低速の連写モードくらいの印象(1コマモードよりもすこし早く切れる程度)で、『AV PRO CFexpress SE』と国産ブランドのメモリーカードは1コマモードで撮影しているくらいに感じました。


細かくデータを検証したかったのでシャッターが切れるタイミングを記録している音声データをチェック。体感だとバッファーがなくなるまで約2秒程度で、どのモデルも同じぐらいに感じたのですが、データを見ると綺麗に書き込み速度順にバッファーがいっぱいになっているのがわかります。興味深いのが、バッファーがいっぱいになってからの書き込み速度。なんと『AV PRO CFexpress SE』がスペック上では書き込みが速いはずの国産ブランドのメモリーカードよりも早いタイミングでシャッターが切れています。



 


図① 『AV PRO CFexpress SX』の書き込み持続速度は黄色の部分。Z9の速度要件を満たしているので書き込みがつまって撮影がストップすることはない。


図②『AV PRO CFexpress SE』の書き込み持続速度は黄色の部分。最高書き込み速度が遅くても持続記録性能が高いので静止画にピッタリのスペック。



Angelbirdのリリースに添付されていた書き込み速度のグラフ(図①と図②)を見ると、他社ブランドのメディアは連続でシャッターを切れば切るほど速度が落ちている(グラフは横軸が記録した容量で縦軸が記録速度)のですが、Angelbirdは独自のテクノロジー「Stable Stream™」を搭載することで書き込み速度が落ちないように設計されています。
今回比較用で使用した国産ブランドカードも、スペック上では書き込み速度1480MB/sと謳われているもののバッファーがいっぱいになった後は、書き込み速度850MB/s(持続速度800MB/s)の『AV PRO CFexpress SE』よりもシャッターが切れるタイミングが遅くなってしまっています。こうした結果を見ると、最大書き込み速度よりも持続速度が重要なのがわかります。『AV PRO CFexpress SE』よりも遅くなっているということは国産ブランドカードの速度は最大速度のピークを越えると書き込み速度が800MB/s以下になってしまうようです。



 



次に圧縮RAW(高効率★、高効率)でもテストしました。画像のサイズがより小さくなっているので、どのモデルもバッファーがいっぱいになるまでの時間が伸びて、バッファーがなくなった後の連写速度があがりました。特に興味深かったのが国産ブランドのメモリーカードのバッファーがなくなるまでの時間が『AV PRO CFexpress SE』に抜かれているところとバッファーがいっぱいになった後の書き込み速度がそれほど速くなっていないところ。この結果を見ると、各メディアメーカーは最大書き込み速度だけではなく、持続速度も公表して欲しいと思いました。


テスト風景の動画記事はコチラ


 

 

まとめ

実際にどのメディアを買ったらいいかというと実に悩ましいところです。予算があれば読み込み速度、書き込み速度、持続速度が速いものを選ぶのがいいのですが、性能が上がれば当然価格も高くなるので、自分の使い方に合わせてメディア選びをするのが賢い買い方でしょう。正直なところポートレートならシャッターを押し放しという無茶苦茶な使い方はしないので、3つのメディアはどれを使っても問題ありません。


編集部サトーの独断と偏見で決めるなら、Z9の性能をフルに引き出したいなら『AV PRO CFexpress SX』、静止画メインでコスパも大切という方は『AV PRO CFexpress SE』という感じ。CFexpressはPCと同じ技術(PCIe Gen3 NVMeプロトコル)が採用されているので、今までカメラ用のメディアを作ってこなかったメーカーが参入してくる可能性が高いので、しっかりとスペックの読み方を覚えておきましょう。







最後にファームウェアの話

今まであまり語られてこなかったのがメディアのファームウェア。本来は使うカメラに適合したファームウェアがメディアに入っていないと使えないのですが、新しいカメラはカメラ側で先発互換を行っているので、ほとんど問題なく使えてしまいます。
どういう時に差が出るかというと最新のカメラでメディアの性能をフルに引き出したい時。実はファームウェアがカメラとマッチングされたものでないとメディアの持つスペックをフルに引き出すことができないのです。ですから最新のカメラを買った時はメディアも最新のものを使うのがオススメです。

 



 


 


PC側から勝手に書き込みを防ぐロックボタンがついているのが嬉しい。
ケーブルがしっかりと奥まで入るタイプを採用。こうしたところを見るとプロユースを意識したブランドなのがわかる。

USB TYPECをUSB TYPE Aに変換するアダプターも付属されている。

 

実は同じ製品でもロットによってファームウェアは人知れず更新されています。ほとんどのメーカーはファームウェアは購入した時のままで、後からアップデートできません。Angelbirdのメディアはファームウェアのアップデートを後からできるようになっているので、カメラ本体が変わってもメディアのポテンシャルを最大限に使うことができます。ファームウェアを更新するためには専用のカードリーダー『CFEXPRESS CARD READER MK2』が必要となります。カードリーダーの値段としては少し高めですが、最新のファームウェアのサポートを受けられるので、ぜひメディアとセットで使ってもらいたい商品です。価格は1万4630円(税込)。

 

 

 

Text:SATO TAKESHI