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  • a story of 【 L 〜elle〜 】
    初の個展開催から見えた、PASHA STYLE編集長ooxoの想い


PASHA STYLE編集長ooxoこと大森和幸。後ろに写るのは初個展【 L 〜elle〜 】のメインビジュアルにもなっている作品。

  

 

 

 

PASHA STYLE編集長ooxoこと大森和幸が、昨年11月に東京銀座のLUMIX GINZA TOKYOにて初の個展【 L 〜elle〜 】を開いた。

誌面で自身の作品を披露するだけでなく、編集長として様々な展示を率いる立場にあった彼は、どのような想いでこの個展に臨んだのだろうか。




―まずは初めての個展開催、おめでとうございます。始めに、個展開催までの経緯を教えて下さい。

「実は個展の前にPASHA STYLEの撮影でS1Rをお借りしていたんです。そのタイミングでたまたま自分の作品撮りが入っていたので、許可をいただいて撮影を行いました。機材返却の際にその作品もお見せしたところ、後に『ギャラリーが2週間ほど空くので、この作風で個展をしませんか?』と声をかけていただいたんです。その時点では作品数も少なかったので、多屋来夢さんとの撮り下ろしの作品とPASHA STYLE撮影会creative Re:Birthでの作品、併せて24点を展示することになりました。本当に偶然ではありますが、良いタイミングで良い機会をいただいたと思います」

 

 

 

―今回の展示で、最もこだわったのはどういったところでしょうか?

「高解像度かな。S1Rという高画素機がどこまでの表現をしてくれるのか、という部分に興味がありました。人が入らない作品ではハイレゾモードでの撮影も行っています。高解像度にはこだわりを持っていて、感度も800までと決めています。1点だけ1250まで上げざるを得なかった作品もありましたが、基本はすべて800。それはやはり暗部の解像感、立体感といった部分のデータを残しておきたいから。カメラに負担をかけない分、被写体には負担をかけることにはなりました。ですから基本、メインカットに関しては全部三脚を立てています。ブレると解像感がなくなってしまうので、ブレないように三脚を使うというのも、こだわりのひとつです」

 

 


ハイレゾモードで撮影された作品





―S1Rを使ってみて、特に良かった点などはありますか?

「個展で展示した作品のような、アンティーク調で少しかすれたような、彩度を落とした色合いは出しやすかったですね。普段の機材とは色味が違うと感じました。僕は通常、JPGで撮影をしています。カメラ内のパラメータである程度合わせておいて、できあがったものに若干の補正を入れるという具合です。そうした際にもS1Rには色に重みがあると思いました。ただ個展での作品はRAWでも撮ったので、なかにはRAWから起こしたものもあります」

 

 

 




今回の個展作品の一部。キャプションボードには撮影時の設定が記載され、それを見た来場者がその数値について質問をする姿が多く見られた。





―JPGで撮るのはなぜですか?

「展示の場ではよく聞かれることですが、JPGだと言うと皆さん驚かれますね。それはつまり、見ても分からないから驚くんです。RAWのまま印刷に回すことはありませんし、それは個展での作品も同じです。JPGの状態で露出や色味がほぼ合っていれば、そこから大幅にいじる必要はない。僕は超ハイキーな写真も撮るし、超アンダーな写真もあって、あまり中間露出の作品は多くないんです。そういったなかでも階調を潰さない、ハイキーでも飛ばさずにコントラストを残すみたいなことを自分の課題として撮る。ギリギリまで攻めて、撮れていたら『間違ってなかった』と思う。それが楽しいんです」

 

 

 

―Vol.5の制作は個展の後で始まりましたが、なにか変わったことはありましたか?

「大きく変わるようなことはありません。ただふたつのX(cross)shooting ※ をやってみて、メーカーさんから僕に対する期待感が変わったことは感じるので、それに対しては応えたいと思いました。クロスシューティングは頼まれたものをただ撮ればいいわけではなく、作家性を出すものです。いつも自分がやっている作品撮りを、メーカーを絡めてやる。自分の世界観を出して、メーカーさんに『やってよかった』と感じてもらいたい。Vol.5でクロスシューティングをやらせてもらったコシナさんは、担当の方が3人で個展を見に来てくださいました。写真を褒めていただき、実際にVol.5の打ち合わせでカメラマンを決めるときに、『今回の商品はレンズの解像感が特徴なので、解像感を出せる人がいい。できれば個展で見た大森さんの写真のような作品を期待したい』というかたちでオファーをいただきました。そういう意味では気合は違いますが、やること自体は同じです。クロスシューティングで僕を指名してくれる人が増えたのは嬉しいことですが、編集長である以上、他のフォトグラファーにも出てほしいという思いはありますね」

 

※X(cross)shootingとは本誌企画。フォトグラファーとメーカーのコラボレーションページ。

 

 

  

―PASHA STYLEとしては認定作品展も2回目の開催がありました。個展を経て、合同展への思いに変化はありましたか?

「第2回の認定展への出展が決まっている方が、僕の展示を見て『認定展はどうしたらいいでしょうか』と訊くことは多かったですね。嬉しいことです。僕としては、自分の個展は認定展をやるにあたっての見本でなければならないという思いもありました。編集長である以上、『自分が目指すのはここ』という気持ちがある。本業は編集という意識が強いのか、自分が前に出ることはあまり重要視していないし、どちらかといえば苦手です。個展ができて、見に来てくれる人がいて、評価をもらえたことはもちろん嬉しい。嬉しいですが威張るのは得意ではありませんし、何かが特別に変わったということもありません」

 

 

―来場者の皆さんとはどういったお話をされたのですか?

「どうやって撮ったのかという疑問を投げかけられることが多かったかな。聞かないと分からないテクニックもたくさん使っているので、聞きたいことがある方は遠慮なく聞いてほしいです。僕は基本的には何でも答えるというスタンスですし、聞かれないと答えられないというところもあります。メーカーの方々も含めてたくさんの方が見に来てくれたので、疑問に思ったことをもっと聞いてもらえば、よりコミュニケーションが取れたのかもしれないと思いました。例えば、『この髪の毛の艶は本物ですか?』という質問をもらったことがありました。正直、その暗さで撮ったら髪の毛の艶なんてほとんど出ません。きっちりライティングしたら出るかもしれないですが、そんな場所でもないし、そんな時間もなかった。できない部分に関してはレタッチでやっていますが、それも『レタッチでこうやるんだよ』とお答えしたところ『そんなことまで教えていいんですか』と驚かれた。家に帰ってやってみるとのことでしたが、やったらいいと思いますね。それで上手くいかなかったら、僕がやっている教室に来てくれたらいい。テクニックをネットなどに公開することはありませんが、それを聞きたくて来てくれた方に対しては、お答えします。『これは秘密のテクニックだから教えられない』というようなことはありません」

 

 

 

―初の個展は大成功に終わりましたが、今後も個展を開催したいという思いはありますか?

「作品を前にして『こんなことがあった、こんな撮り方をした』など語りたいことはたくさんあります。今回の個展に対しては、機材から場所までサポートしていただいて、あのタイミングで出せる最高のものを出したつもりです。次に個展をやるとしたら……引退した後に、たっぷりお金と時間をかけて、1回やれるかやれないかじゃないかと思います。今回の個展に対しては、あっという間に終わってしまったという感覚が強い。1000人近い方々が来て感想を言ってくれたのはすごく楽しかったし、嬉しさや、やりがいも感じました。あの経験を生かして皆さんに何を伝えていくのか、皆さんにどうなってほしいのかということを考えています。頑張ればメーカーが認めてくれる、皆さんが頑張ることでメーカーがサポートしてくれる、サポートしてもらうことでメディアが大きくなっていけば、やりたかったことを続けていける、ということを提示出来ていたならすごく嬉しい。ただ、まったく個展をやるつもりがないというわけではなく、もしまた機会をいただけるならやりたいですね。PASHA STYLEの認知度を上げていきながら、大森和幸自身もプロデュースしつつ上がって行くのがベストではないかと考えています」





来場者の皆さまとの写真。ひとりひとりと話をしている姿が印象的。

 

 

 

大森氏の技術や世界観、こだわりが凝縮されたような空間での個展は、昨年11月13日に幕を閉じた。1000人を超える方々が訪れたとのことだが、筆者が訪ねた際にも、大森氏は来場者ひとりひとりへの声掛けを忘れることはなかった。

その姿から、PASHA STYLE編集長として、そしてひとりのプロフェッショナルなフォトグラファーとしての、大森氏の写真への想いが垣間見えた――。

 

 

 

 

 

【text:Akane Kofuji】




  

 

  

 

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